睡眠時間が短く、「取るべき睡眠時間を確保できていないのではないか」と不安に思われている社会人の方は多くいらっしゃると思います。
不安を解消するには、どれくらいの睡眠時間をとることが望ましいかを把握することが重要です。
また、睡眠は長さだけでなく質も重要なため、睡眠の質を高める方法も合わせて確認しましょう。
この記事では、社会人の平均的な睡眠時間や睡眠不足による弊害、睡眠の質を高める方法などを説明します。睡眠時間が足りていないと感じる社会人の方は必見の内容です。
社会人の平均的な睡眠時間は6時間から8時間
「社会人」という言葉の定義はケースバイケースではありますが、以下では「20歳以上の方」を社会人と定義して、説明を行います。
厚生労働省が行った調査では、20歳以上の日本人で、睡眠時間が6時間以上8時間未満である人の割合がおよそ6割を占めています。
また、同調査によると睡眠時間が6時間未満の方は男性で37.5%、女性で40.6%を占めています。
一般的な睡眠時間に満たない方は、寝不足だと感じることがあるかもしれません。社会人の方が睡眠時間を確保できず寝不足になってしまうのは、シフトワークや育児・介護、ゲームやインターネットによる夜型生活などの理由が多いと考えられます。
なお、6時間~8時間という睡眠時間はあくまでも一般的な目安です。十分だと感じる睡眠時間は人それぞれ異なるうえに、高齢になるほど必要な睡眠時間が短くなる傾向にあることも報告されています。
短くても自分に適した睡眠時間であれば問題ありません。しかし、睡眠不足を感じている場合は自分に必要なだけの睡眠時間を確保できるよう努めることが大切です。
豊田早苗
とよだクリニック院長
自分にとって最適な睡眠時間を見つける方法は、毎日の睡眠について以下の項目をチェックすることで見つけられます。
1:入眠までの時間が10分程度
2:夜中や早朝に目が覚めない
3:起床時に熟睡感がある
4:日中に眠気が起こらない
毎日睡眠をチェックする中で、睡眠時間は同じであっても、全項目を満たす日と満たせない日が出てくると思います。
しかし、その原因は睡眠負債(慢性的な睡眠不足が続いている状態)なので、全項目を満たせた日の睡眠時間が、自分にとって最適な睡眠時間と考えてください。
睡眠不足による弊害
慢性的な睡眠不足は日中の眠気を引き起こすだけでなく、記憶力・集中力・意欲・ホルモン分泌・自律神経機能・免疫力といった幅広い部分に悪影響を及ぼす可能性があります。
例えばホルモン分泌に乱れが生じると、女性は生理不順や無月経などになってしまう可能性があり、自律神経が乱れると入眠しづらくなります。免疫力が低下すれば風邪にかかりやすくなり、一度体調を崩すと完治するまでに時間がかかってしまうかもしれません。
また、慢性的な寝不足の人は、糖尿病・心筋梗塞・狭心症といった生活習慣病にかかりやすいことも明らかになっています。健康的な生活を送るには、十分な睡眠が不可欠です。
豊田早苗
とよだクリニック院長
睡眠中は、副交感神経が優位になり、体と脳が休息状態に入ります。しかし、「夜になかなか寝付けない」「何度も目が覚める」などの睡眠不足になると、副交感神経ではなく、交感神経が優位な状態が続いてしまいます。
交感神経が優位な状態が続くと、血圧が上昇したり、インスリン分泌が低下して血糖値が高い状態になります。その結果、糖尿病や心筋梗塞・狭心症といった生活習慣病が起こりやすくなります。
社会人にとっては睡眠時間も大事だが「睡眠の質」も重要
睡眠時間を確保することはもちろん重要ですが、それと同じぐらい睡眠の「質」を高めることも重要です。
「長時間寝ること」だけを意識しすぎて、自分にとって必要以上の睡眠時間を確保しようとすると、かえって睡眠の質を低下させてしまう可能性もあります。
睡眠の質が高まると熟睡しやすくなり、効率的な疲労回復も期待できるため、時間の確保だけでなく睡眠の質を意識することも心がけましょう。
社会人の方が睡眠の質を高めるための方法
社会人の方が睡眠の質を高めるための方法としては、主に以下のことが挙げられます。
- 規則正しい生活を心がける
- 適度な運動を習慣づける
- 就寝の約90~120分前に入浴する
- 就寝前のカフェインやアルコール摂取・喫煙を控える
- 自分に合った寝具を使う
- 不眠症が疑われる場合は医療機関を受診
それぞれの方法について、詳しく説明します。
規則正しい生活を心がける
質の高い睡眠は規則正しい生活から生まれるため、生活のリズムを整えて健康的な毎日を過ごすことを心がけましょう。
ホルモンの分泌や生理的な活動は体内時計の働きによって調節されており、体内時計の周期は約25時間とされています。1日24時間の周期とは1時間程のずれがありますが、外部からの光や食事などの刺激によって体内時計はリセットできます。
特に、日光のような強い光を浴びることで、「メラトニン」と呼ばれる眠気を促進するホルモンの分泌が抑制され、その代わりに「セロトニン」と呼ばれる脳を覚醒させるホルモンが分泌されます。
メラトニンはセロトニンからつくられるので、夜に眠気を促すためには日中にセロトニンを分泌させておくことが重要です。メラトニンは日光を浴びてからおよそ14~16時間後に再分泌されるため、強い光を浴びてから14~16時間ほど経過すると、自然と眠気が生じます。
この流れから、早い時間帯に光を浴びることで夜早めに眠くなり、朝も自然と早起きできるという生活リズムが生まれるのです。
また、就寝直前に夕食や夜食をとると、消化活動が優先されて睡眠が妨げられる傾向にあります。食事の時間がバラバラだと生活リズムの乱れにも繋がるため、体内時計を整えるという観点でも、規則正しい時間に食事を済ませるようにしましょう。
適度な運動を習慣づける
適度な運動を日々の習慣として取り入れるのもおすすめです。日中に運動を行って程良い疲労感が得られると、心地良い眠りに繋がりやすくなるでしょう。
ただし、激しい運動は心身を活動的な状態にさせる交感神経を優位にしてしまうため、ウォーキングやジョギング、スイミングといった軽めの有酸素運動がおすすめです。
また、就寝直前に運動すると体が興奮して寝つきづらくなるため、運動は就寝時刻の約3時間前までに行いましょう。
就寝の約90~120分前に入浴する
体温が一旦上昇して下降するタイミングで眠気が促されるため、入浴によって体を温めることも深い睡眠を得るには効果的です。
ただし、就寝直前に熱いお湯に入浴すると、激しい運動と同様に交感神経が優位になって寝つきを悪くしてしまう可能性があるので注意してください。
お風呂に入るのは、就寝の約90~120分前が理想的です。入浴する時間は25分~30分程度で、お湯の温度は38℃程度のぬるめが良いでしょう。約40℃のお湯に30分程度浸かる半身浴も効果的です。
就寝前のカフェインやアルコール摂取・喫煙を控える
カフェインには覚醒作用があるため、コーヒー・緑茶・チョコレートのようなカフェインを含む食べ物や飲み物は、就寝の3〜4時間前から控えたほうが賢明です。
タバコに含まれるニコチンも交感神経を優位にする刺激剤として作用するため、就寝前の喫煙も望ましくありません。
また、寝る前のアルコール摂取は、入眠はできても夜中に何度も目が覚める可能性があるため、控えたほうが良いでしょう。
自分に合った寝具を使う
マットレスや枕といった寝具を見直すことで、眠りの質が改善される場合があります。寝具の触り心地や硬さなどは睡眠に大きく影響を与えるため、今使っている寝具を自分の体に合うものに買い替えることで、熟睡しやすくなるかもしれません。
寝具としてマットレスを利用している場合は、体圧分散性と反発力に注目して選ぶ方法がおすすめです。
体圧分散性に優れているマットレスは理想的な寝姿勢を維持しやすく、適度な反発力があればスムーズに寝返りを打ちやすくなります。適度に寝返りを打ちながら理想的な寝姿勢で寝られると、体の一部だけに負担がかかることを防ぎやすくなるでしょう。
枕を選ぶ際には、寝姿勢に応じて適する高さを選ぶ方法があります。
仰向け寝では、背骨が緩やかなS字カーブを描く高さが理想的とされており、実際に寝た時に目線がやや前を向く状態が目安です。横向き寝では、頭から背骨が真っすぐになる高さの枕を選んでください。
マットレスや枕は自分にとって快適なものであることが重要なので、上記の選び方に加えて素材や硬さなど好みに応じたものを選ぶように心がけましょう。
不眠症が疑われる場合は医療機関を受診
睡眠の質が低下している場合は、普段の生活習慣や寝具などに問題があるだけでなく、不眠症をはじめとした睡眠障害の可能性もあります。
その場合は自力で対処するのは難しいため、早めに医療機関を受診しましょう。睡眠障害の治療は、症状によって精神科・心療内科・耳鼻咽喉科などさまざまな科で行われます。どの科を受診すれば良いかわからない時には、まずは内科を受診して医師の指示を仰ぐ方法もあります。
「生活習慣を見直せば大丈夫」と自己判断せず、眠れない時期が長く続く場合や体調不良がつらい場合には、無理せず医療機関を受診して専門家から適切なアドバイスを受けるようにしてください。
豊田早苗
とよだクリニック院長
睡眠は、時間だけでなく質も重要です。しかし、「睡眠時間が十分取れているから不眠症ではない!」「眠れているから大丈夫!」と思っている方も多くいらっしゃいます。
睡眠の質の低下による不眠症では、睡眠時間が確保できているために、自分では不眠症と気が付かないケースがあります。
夜に何度もトイレにいく、作業中に眠気が起こる、寝床について5分以内に眠ってしまう、疲れやすい、イライラしやすい、食欲がないなどの症状がある場合は、不眠症に気づいていないだけかもしれません。再度、睡眠について見直してみましょう。
まとめ
20歳以上の男女の場合、1日の睡眠時間は6時間以上、8時間未満の方の割合が多い傾向にあります。
このことから、社会人の睡眠時間は6~8時間ほどが平均的だといえるでしょう。
社会人の場合は仕事や家事・育児などが忙しく、日々やることに追われて睡眠時間が確保できなかったり、インターネットサーフィンやゲームなどが理由で寝不足になったりする方も多いと考えられます。
自身にとって必要なだけの睡眠時間を確保することは重要ですが、睡眠は「時間の長さ」だけでなく「質」にこだわることも大切です。
睡眠の質を高めるために日常生活で取り組める対策として、運動や寝具の見直しなどさまざまな方法が挙げられます。まずは手軽に取り組めることから、日常生活を整えるよう意識しましょう。