ストレスは目に見えないものなので、知らず知らずのうちに溜まっていくうえに、何が原因なのか把握することも難しいでしょう。
同じ出来事を体験したとしても、人それぞれ感じ方は異なります。周囲の人からしたら平気なことでも、自分にとってはとてもつらく、気持ちが落ち込んでしまう出来事だってあるかもしれません。
ストレスから解放されて明快な日々を過ごすためには、具体的な原因を自分でしっかり認識しておくことが大切です。
この記事では、ストレスの原因となるものや、ストレスを溜めることのリスクなどについて解説します。前向きに活動していけるよう、ストレスとの上手な付き合い方を見つけるための参考としてください。
ストレスの原因となる行動や要素
ストレスとは、外部からの刺激によって体が緊張してしまった状態のことです。
一般的に「精神面に受けるもの」と思われやすいですが、肉体的要因・環境的要因から受ける刺激もストレスの一つとされます。
具体的には、以下のような行動・要素がストレスの原因に繋がるものです。
- オーバーワーク
- 過労や出世
- 人間関係
- ライフステージの変化
- 騒音や天候
- 睡眠不足や睡眠の質の低下
どれか一つだけがストレスの原因になっているわけではなく、複数のものが重なり合っているケースもあります。
それぞれの内容について詳しく解説するので、心当たりがないかチェックしてみましょう。
オーバーワーク
スポーツや筋トレなどを過度に頑張り過ぎて、筋肉の回復が間に合わず、慢性的な疲労を感じることがストレスに繋がる場合があります。
一般的に、適度な運動は健康維持やストレス解消に効果的です。しかし、休日を設けず毎日過度に運動したり、体に負荷がかかる運動を長時間続けたりすると、ストレスを感じてしまうことがあります。
オーバーワークは肉体面にストレスがかかるだけでなく、倦怠感があらわれることで物事へのやる気が削がれ、精神的なストレスに繋がる可能性もあるため注意しなくてはなりません。
過労や出世
過密なスケジュールでの仕事は、心身ともにストレスが溜まる原因となります。
長期間にわたって過剰な労働が続くと、すべての労力を仕事に注ぎ込むこととなり、仕事以外の出来事が疎かになるかもしれません。すると、寝る時間が遅くなったり食事を抜いたりするようになって、生活リズムの崩れに繋がる可能性もあります。
疲労を回復させるためには、規則正しい食事や睡眠をとることが重要です。慢性的な疲労が溜まった状態になれば、一時的な睡眠では疲労回復できなくなるといわれています。
また、ストレスに関係しているのは「悪い出来事」だけではありません。昇進や出世、責任ある仕事を任されるなど、周りから褒められる「良い変化」も、ストレスの原因となることがあります。
慣れない環境に適応するためにはエネルギーを使います。例えそれが良い出来事だとしても、無意識的にストレスだと感じることがあるのです。
人間関係
職場や家庭における人間関係は、ストレスの原因として代表的といえるものです。
労働政策研究・研修機構の発表(※)によると、離職の原因の3割以上が「人間関係のストレス」という調査結果もあります。このことからも、人間関係で悩んでいる方は少なくないということがわかるでしょう。
周囲との人間関係が良好だと、人生を活き活きと生きる楽しみに繋がる反面、一度悪化してしまえば、複雑にこじれて深い悩みになってしまいます。
人間関係にストレスを抱えると、例えば「自宅でも上司のことを考えてしまう」「友人からLINEの返事が来ないのが不安」など、目の前に相手がいなくてもネガティブな想像をして、ストレスを受けるようになるかもしれません。
(※)労働政策研究・研修機構 若年者の離職状況と離職後のキャリア形成(若年者の能力開発と職場への定着に関する調査)
ライフステージの変化
人生には、赤ちゃんから幼児期、小学生・中学生を経て高校生になり、成人して老後に向かっていくという、さまざまなライフステージが用意されています。このような成長に伴い、身の回りを取り巻く環境も徐々に変化していくものです。
例えば、学生時代には受験や入学、成人になると就職や引っ越し、その後は結婚・出産・家族との死別など、良いことも悪いこともさまざまなことがあるでしょう。
前述のとおり、自分が過ごす環境に変化があれば、それに適応するためにエネルギーを使うこととなるため、こうした人生における変化が、精神的なストレスに繋がる可能性も考えられます。
世間では喜ばしいイベントだとされる結婚においても、「マリッジブルー」と呼ばれる抑うつ気分になるケースがあると知られています。
騒音や天候
住んでいる地域の環境が影響してストレスを受けることがあります。ここでいう環境に該当するのは、気温や気候、自宅周辺の状況などです。
具体的には、以下のような環境にいることで、ストレスを受けている可能性があります。
- 隣人の騒音がうるさい
- 家が道路に近く車の音が気になる
- 高層階に住んでおり階段の上り下りが大変
- 自宅内が寒すぎるもしくは暑すぎる
- 雨や雪の日が続いている
環境的な要因が原因となってストレスを受けている場合、時間の経過によって解決できるものもありますが、引っ越しをしなければ根本的な解決には至らない場合もあります。
睡眠不足や睡眠の質の低下
睡眠には、心身の疲労を回復させてメンテナンスするという重要な役割があります。日々受けたストレスを解消させるには、快適な睡眠をとって心身を労わることが大切です。
しかし、スマホ操作やシフト制の仕事などで夜更しすると、自律神経が乱れて睡眠の質が低下する可能性があります。
自律神経が乱れると起床後の体調不良に繋がり、倦怠感や疲労感などがあることで、夜にまた眠れなくなるという負のループに陥る可能性があるため、注意が必要です。
また、睡眠不足の状態が続くと「睡眠負債」が溜まっていきますが、睡眠負債は休日の「寝だめ」では解消されません。睡眠負債を溜めないためには、日頃から睡眠リズムを整えることが大切です。
社会のなかで生きている限り、ストレスをゼロにすることは難しいでしょう。日々受けるストレスを上手く解消させるためにも、質の高い睡眠をとって疲労を回復させるという意識を持つことが望ましいです。
ストレスを感じやすい人の特徴
基本的に、ストレスとは誰もが受けるものです。しかし、生まれ育った環境やもともとの気質が関係して、ストレスを感じやすい状態になっている方もいると考えられています。
以下のような特徴を持つ方は、ストレスを感じやすい人であるといえるでしょう。
- 心配性
- 責任感がある
- 真面目
- 完璧主義
上記のような性格面だけでなく、趣味がなく楽しめることがない、常に予定に追われている、悩み事を相談できる相手がいない方なども、ストレスを受けやすいといえます。
ストレスを受けやすい特徴を持つ方は、自分に合うストレス発散方法を見つけたり、物事に敏感である気質を活かした職業に就いたりして、自らの性格と上手く付き合っていくと良いでしょう。
久手堅司
せたがや内科・神経内科クリニック院長
反対に、ストレスを感じにくい方は「マイペース」「楽観的」「責任感がない」「完璧主義でない」などの特徴があります。
ストレスが原因で病気になることはある?
適度なストレスを受けることは、日々の活動に張りが出るため「必要なもの」であるともいわれています。
一方、過剰なストレスを慢性的に受けている場合、心身の健康に悪影響を及ぼす可能性があるため気を付けなくてはなりません。
ストレスが原因で引き起こされる病気は、脳卒中・高血圧・糖尿病・蕁麻疹・うつ病など、さまざまな種類があります。
また、病気ではありませんが、ストレスを受けることで頭痛や肩こり、眼精疲労といった症状があらわれることもあるようです。
もしすでにストレスを受けることで日常生活に支障が出ているのであれば、自分だけで考え込まずに、医療機関を受診して専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
もし病気ではなかったとしても、専門家から「病気ではない」という診断を受けるだけでも、気持ちが楽になることもあるかもしれません。
久手堅司
せたがや内科・神経内科クリニック院長
日常生活で支障が出ていて医療機関を受診する場合は、症状により受診する科が異なります。例えば、不眠なら、心療内科や精神科、内科です。
そのほかにも、うつや気分障害なら、心療内科や精神科、頭痛であれば、脳神経外科や脳神経内科、肩こりは整形外科を受診しましょう。
時間と費用はかかりますが、病気ではないと診断されるのは、安心のためにも大事なことです。
ストレスを溜めないための方法
人生を生きるなかで、ライフステージにおける変化は誰にでも訪れることです。また、人生において人付き合いは必須ともいえることなので、人間関係に関する悩みやストレスを完全になくすのは難しいでしょう。
そのため、「ストレスゼロ」を目指すのではなく、日々ストレスを解消させて上手く付き合うという意識を持つようにしましょう。
ストレスを溜めないために日頃から取り組めることとして、以下のことが挙げられます。
- バランスの良い食事をとる
- 気分転換する
- 睡眠の質を高める
- 誰かに相談する
- たくさん笑う
- 自分の趣味に没頭する
- 環境を変える
それぞれの内容について、以下で詳しく解説します。
バランスの良い食事をとる
ストレスを溜めないためには、日々の食生活に気を配ることが大切です。
ストレスを受けると、活動モードの「交感神経」が働くことで食欲の低下に繋がったり、反対にホルモンの関係で肥満になりやすくなったりと、健康面に悪影響を与える可能性があるとされています。
また、体重が増えることで自己嫌悪な気持ちになると、「痩せなきゃ」「外出したくない」と自分を追い込むようになり、それがまたストレスに繋がるという悪循環に陥るかもしれません。
食生活の乱れによって、過度な体重の増減や睡眠リズムの乱れを引き起こさないためにも、毎日きちんと3食たべて、規則正しい食事内容を心がけましょう。
今日からできる具体的な方法として、以下の行動が挙げられます。
- 毎日同じ時間帯に食べる
- 栄養バランスを考えて食べる
- 偏食や暴飲暴食を避ける
- 家族や友人と一緒に食べる
食事をする際には、「おいしい」「良いにおい」「落ち着く」といった感覚を味わうことが大切だとされているため、ぜひ意識して食事を楽しむようにしてみてください。
久手堅司
せたがや内科・神経内科クリニック院長
ストレスを軽減させるために、抗ストレスホルモンの材料になるビタミンCやビタミンE、精神を安定させる働きをもつセロトニンの材料になるトリプトファンなどの栄養素を摂取すると良いでしょう。
また、カフェインやアルコールのとりすぎには注意が必要です。カフェインが含まれているエナジードリンクは、あまりおすすめしません。
気分転換する
仕事や家庭などに関する悩みを抱えており、心配事が頭から離れずストレスが溜まっている時には、気分転換に努めましょう。
気分転換とは、暗い気持ちから明るい気持ちに切り替えることを目的とした行為のことです。自分が明るい気持ちになれるなら、何に取り組んでも構いません。
例えば、体を動かすことでリフレッシュできるなら、スポーツやストレッチに励んでみると良いでしょう。読書や映画鑑賞をして物語に浸るのも、効果的な気分転換の方法です。
また、非日常を味わうために、少し遠出の旅行に出たり、近場であってもホテルで過ごしたりする方法もおすすめです。
気分転換する方法に決まりはないので、自分の好みに合う方法を見つけて、日常生活に取り入れてみてください。
睡眠の質を高める
前述のとおり、睡眠は疲労回復のために重要な役割を果たすものです。日本の成人の睡眠時間は、6~8時間の方が約6割を占めていることから、この睡眠時間を目安にすると良いでしょう。
ただし、睡眠時間が6~8時間に満たなくても、日中に眠くならない程度の睡眠をとれているのであれば問題ありません。6~8時間というのはあくまでも基準にして、自分にとって最適な睡眠時間を見つけることが大切です。
また、睡眠をとる際には「時間」だけでなく「質」にもこだわるようにしましょう。長時間眠れていても、睡眠の質が低下していれば熟睡感が得られず、翌日の体調不良に繋がる可能性があります。
睡眠の質を高めるためにおすすめなのは、以下の行動です。
- 日中に運動をする
- 入浴して体を温める
- 就寝前のスマホ操作を控える
- 音楽やアロマでリラックスする
- 寝室の環境(室温・湿度など)や寝具を整える
就寝前には、心身ともに落ち着いた状態でいることが大切です。激しい運動や喫煙、カフェイン・アルコールの摂取など、体や脳を覚醒させる行動は控えるようにしましょう。
誰かに相談する
ストレスを抱えている時には、自分一人だけで悩まず誰かに相談するのも選択肢の一つです。もし悩みを相談できる相手がいるのであれば、思い切って打ち明けてみましょう。
友人や家族など身近な人に相談しても良いですが、相談しにくい内容であれば、公的機関が設ける相談窓口を活用する方法もあります。
悩み自体は解決しなくても、誰かに話すことで気持ちが軽くなるかもしれません。また、自分では思いつかない解決方法やアドバイスをもらえることも期待できます。
たくさん笑う
ストレスを抱えている時には、自律神経のうち活動モードである「交感神経」が優位な状態です。そんな時に笑うことで、休息モードである「副交感神経」が優位な状態になって、ストレス解消に繋がると考えられています。
さらに、笑うと周囲からの印象も良くなるため、人間関係に良い影響を及ぼすかもしれません。
ストレスがある状態で笑うのは難しいかもしれませんが、すぐに取り組めることでもあるので、ぜひ意識して笑顔を作るよう心がけてみてください。
自分の趣味に没頭する
例えば読書やゲームなど、自分が好きなことに没頭すると、ストレスの元凶を忘れられるかもしれません。
ストレスを抱えていると、例えば「上司が苦手で仕事に行きたくない」「●●の言葉が頭に残って苛立つ」など、常にストレスに関係することを考えてしまうでしょう。
しかし、いくら一人で考えても解決することは難しく、悩み事に触れる時間が増えるだけなので、よりストレスが増加してしまう可能性があります。
ストレスを忘れるための趣味は、一人でできることから友人と楽しめることなど、一つだけでなく複数持っておくと、その時々の状況に合わせた方法に取り組めるためおすすめです。
環境を変える
ストレスの原因をどうしても解消できないのであれば、思い切って自分自身の環境を変えるといった選択肢もあります。
決断には勇気がいると思いますが、「どうしても無理ならここから離れる」という選択肢を持っておくだけでも、気持ちに余裕ができて前向きに行動できるようになるかもしれません。
環境を変える方法の一例には、以下のような行動があります。
- 家族との関係が悪いなら、一人暮らしを始める
- 職場の人間関係に悩んでいるなら、転職する
- 通勤時の満員電車が苦痛なら、職場の近くに引っ越す
解決が難しい問題を無理に解決させようとすること自体がストレスに繋がることもあります。
自分にとって大切なことを取捨選択して、時にはストレスの元凶となることから離れることも視野に入れておくと良いでしょう。
まとめ
誰もが日々、さまざまな出来事からストレスを受けながら生活しています。ストレスの原因となるのは、人間関係や過労、騒音や天候などさまざまです。
人によって物事の捉え方は異なるため、なかには「ストレスを受けやすい人」もいるでしょう。
しかし、ストレスを全く受けずに生きていくことは、基本的には難しいと考えられるため、ストレスを受けたのであればそれを上手に解消させつつ日々を過ごす意識が大切です。
自分一人ですべてを解決しようとするのではなく、時には周囲を頼ってみても良いでしょう。あまりにもつらい状況が続き、心身に支障をきたしているのであれば、医療機関を受診するのも一つの選択肢です。
気分転換やリフレッシュするための方法を複数持っておくことで、日常生活で受けるさまざまなストレスを上手に解消していくことができるかもしれません。