睡眠のサイクルに関する話をする時は、「レム睡眠」「ノンレム睡眠」という言葉がよく使われます。
これらの言葉を耳にしたことがある方は多いと思いますが、実際にどのような睡眠のことを指すのか、両者がどのように異なるかは、把握していない方もいらっしゃるでしょう。
それぞれの違いを理解して適切な睡眠サイクルを保てれば、日々の眠りを快適にできる可能性があります。
この記事では、レム睡眠とノンレム睡眠がそれぞれどのような睡眠なのか、レム睡眠・ノンレム睡眠の周期を整える方法などを説明します。
睡眠周期を構成する「レム睡眠」とは
レム睡眠とは睡眠段階の一つで、「急速眼球運動=rapid eye movements」の頭文字を取って「レム睡眠」と呼ばれています。
レム睡眠時の脳波は覚醒している時に近い状態で、脳や自律神経の活動レベルは高く、筋肉は弛緩した状態です。
一般的に成人の睡眠周期は90分程度でワンセットになっているため、一晩に3~5回程度レム睡眠が出現する計算です。レム睡眠は朝が近付くにつれて長くなる傾向にあり、一晩の睡眠全体では約20%をレム睡眠が占めることが一般的とされています。
白濱龍太郎
RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック理事長
レム睡眠は、単に浅い睡眠というだけではなく、ノンレム睡眠中の徐波の出現を促す役割をもっている可能性があり、結果として学習や記憶の形成に貢献すると考えられます。
レム睡眠とノンレム睡眠の違い
睡眠のサイクルは、「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」で構成されています。レム睡眠とノンレム睡眠の違いを、以下で説明します。
レム睡眠
レム睡眠の概要は上述したとおりで、約90分間の睡眠サイクルの最後に出現します。
体は休んでいるものの脳は動いている状態のため、レム睡眠時には夢を見ることも多いです。起きた後に夢で見た内容を覚えていてドキドキすることがあるのは、レム睡眠時には交感神経の活動が活発になっているためだとされています。
ノンレム睡眠
ノンレム睡眠時は体だけでなく脳も眠っているため、眼球運動は見られず、夢もあまり見ません。
睡眠の深さによってN1、N2、N3の3段階に分かれており、N1とN2は浅い眠り、N3は深い眠りに分類されます。睡眠の前半では深い眠りであるN3が多く出現し、朝方には浅い眠りであるN1とN2が多く出現することが一般的です。
レム睡眠時には心拍数と呼吸が変動しますが、ノンレム睡眠時はどちらもほとんど変動しない点も、違いとして挙げられます。
レム睡眠の割合が多いと睡眠の質が低くなる原因
レム睡眠は脳が休んでいない状態のため、レム睡眠の割合が通常よりも多くなると、睡眠の質が低くなる可能性があります。
レム睡眠になりやすい原因として考えられるのは、主に以下のような事項です。
- ストレスや心配ごとなどを抱えている
- 寝室の照明や音などが適切でない
- お風呂の温度が熱すぎる
- カフェインやアルコールを摂取している
それぞれのポイントを詳しく解説します。
ストレスや心配ごとなどを抱えている
ストレスや心配ごとを抱えていたり、緊張やイライラを感じたりすると、自律神経が活動的な「交感神経」優位の状態になります。
睡眠前に理想的なのは、リラックスして「副交感神経」が優位な状態になっていることです。交感神経が優位だと脳が活性化してしまうため、なかなか寝付けなくなってしまう可能性があります。
寝室の照明や音などが適切でない
寝室の照明や音は、睡眠の質に影響を与える要素の一つです。
光の色は寒色系よりも暖色系のほうが良く、光源が直接目に入るのも好ましくありません。寝室の照明が気になって睡眠の質が低下していると感じるのであれば、暖色系の間接照明の使用をおすすめします。
また、雑音や音楽も眠りを浅くする要因になり得ます。寝る直前にリラックスできる音楽を聴くのは問題ありませんが、睡眠中も鳴りっぱなしにならないよう一定時間で止まる設定にしておきましょう。
お風呂の温度が熱すぎる
お風呂の温度が熱すぎる場合も交感神経が優位になってしまうため、注意が必要です。お湯の温度は38℃程度で、入浴時間は25~30分程度が理想的です。
また、体温が上昇してから低下するタイミングで眠気が促されるため、入浴は就寝時間の約90~120分前に済ませるよう心がけましょう。
カフェインやアルコールを摂取している
覚醒作用があるカフェインやアルコールを就寝前に摂取すると、眠りが浅くなる可能性があります。
カフェインには利尿作用もあるため、トイレに行くために夜中に目覚めやすくなる点にも注意が必要です。アルコールも、代謝によって尿意をもたらすケースがあるので、どちらも過度な摂取には注意してください。
睡眠中に激しく動く場合は「レム睡眠行動障害」の可能性も
寝ている時にある程度の寝返りを打つのは生理現象として一般的です。
しかし、睡眠中に激しく動きまわるようなケースでは「レム睡眠行動障害」の可能性も考えられます。「レム睡眠行動障害」とは、中高年に多い睡眠障害の一つです。
上述のように、レム睡眠中は筋肉が弛緩しており力が入らない状態ですが、何らかの原因で筋肉を弛緩する脳の機能が変性する場合があります。その際に起きるのがレム睡眠行動障害です。
レム睡眠行動障害は、パーキンソン病やレビー小体型認知症の発病前にあらわれる現象ともいわれています。そのため、レム睡眠行動障害が疑われる場合には、医療機関を受診することが賢明です。
白濱龍太郎
RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック理事長
レム睡眠行動障害を疑う場合は、神経内科もしくは睡眠外来を受診してください。夜間の行動を記録しながらPSG(終夜ポリグラフ検査)を行います。
レム睡眠行動障害はレビー小体型認知症などを合併することがあり、疑われる場合はさらに精査を進めることになります。
レム睡眠・ノンレム睡眠の周期を整えて睡眠の質を高める方法
睡眠の質を高めるためには、睡眠中にレム睡眠・ノンレム睡眠が適切に繰り返されることが大切です。
レム睡眠・ノンレム睡眠の周期を整える手段としては、以下の方法が挙げられます。
- 規則正しい生活を心がける
- 適度な運動を習慣づける
- 寝室の環境を整える
それぞれの方法について、詳しく説明します。
規則正しい生活を心がける
体内時計の周期は毎日少しずつズレていきますが、就寝時間と起床時間を毎日同じタイミングにすることで、上手くリセットして調節できます。
体内時計が適切に調節されるとホルモンの分泌や生理的活動も整うため、睡眠に備えやすくなるでしょう。
また、寝る直前に食事をしないことも大切です。胃腸が活発に動いていると肉体が熟睡できない状態になるため、睡眠の質が低下する可能性があります。
食べたものを胃が分解し終わるまでには約2~3時間かかるため、就寝の3時間前までには夕食を済ませるよう心がけましょう。
白濱龍太郎
RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック理事長
体内時計が乱れると、睡眠相後退症候群などのリズム障害が生じる可能性があります。その結果、日中の過剰な眠気や倦怠感が生じたり、自律神経失調状態から血圧上昇などが生じたりする可能性もあります。
適度な運動を習慣づける
適度な運動による心地良い疲労は、睡眠を促進するのに効果的です。
ただし、運動が激しすぎたり寝る直前に行ったりすると、体が興奮して交感神経が優位になるため、睡眠促進には逆効果な場合があります。
就寝の3時間ほど前までを目安に、毎日続けられるぐらいの適度な負荷がかかる運動を行いましょう。ウォーキングやジョギングといった軽めの有酸素運動がおすすめです。
寝室の環境を整える
スムーズに入眠するためにも、室温や湿度、寝具といった就寝環境にもこだわりましょう。
眠りに適した寝室の温度は、夏場が25℃〜26℃、冬場が22℃〜23℃、湿度は通年50%〜60%程度です。エアコンなどを利用しながら、眠りやすい温度や湿度を保つよう心がけてください。
また、リラックスすると副交感神経が優位な状態になるため、アロマやお香を使って部屋の香りも落ち着くものにすることをおすすめします。
枕やマットレスなどの寝具も、睡眠の質に影響を与える重要な要素です。機能性に優れているものなどさまざまな種類が販売されているため、自分の体に合って快適だと感じるものを利用するようにしましょう。
まとめ
レム睡眠とは、筋肉は弛緩しているものの、脳は覚醒している睡眠状態のことを指します。急速な眼球運動を伴う睡眠段階の一つであり、「体は休んでいるが脳は起きている」状態です。
生活習慣の乱れなどが引き金となって睡眠中のレム睡眠の割合が増えると、睡眠の質が低下する可能性があります。
寝室環境を整える、適度な運動を取り入れるなど、日々の生活を見直すことで適切な睡眠サイクルを保てるよう心がけましょう。