金縛りと聞くと、「幽霊」「心霊現象」といった言葉がまず頭に思い浮かぶ方は多いと思います。
これまでに実際に金縛りを体験したことがある方は、もしかしたら霊的な存在を意識したかもしれません。また、金縛りを体験したことがない方は、「どのような現象なのか」と興味があるでしょう。
「心霊現象なのかもしれない」「自分は呪われているのかもしれない」と不安に思っていると、恐怖心からなかなか寝つけなくなる可能性があるため、金縛りのメカニズムをきちんと知っておくことが大切です。
この記事では、金縛りが起こるメカニズムや原因、対処法などについて紹介します。金縛りに悩んでいる方や、金縛りが実際どのような体験なのか気になる方はぜひ参考にしてください。
金縛りは睡眠麻痺と呼ばれる現象のこと
金縛りに霊的なイメージを抱く方は多いと思いますが、実際には心霊現象ではありません。
金縛りは睡眠障害の一種であり、医学的には「睡眠麻痺(すいみんまひ)」と呼ばれている現象です。
10〜20歳代の若い年齢層ではよくある症状で、成人の約半数の方が人生に一度は経験したことがあるとされています。
金縛りのメカニズムや症状について、具体的な内容を見ていきましょう。
金縛りが起こるメカニズム
睡眠中には、脳が休まる深い眠りの「ノンレム睡眠」と、体は休んで脳は活発的な「レム睡眠」が交互に繰り返されています。
このうち、金縛りとされる睡眠麻痺が起こるのはレム睡眠のタイミングです。
通常であれば、眠りについた直後にノンレム睡眠の状態となり、約90分後にレム睡眠が出現する流れとなっています。
しかし、何らかの原因によって就寝直後にレム睡眠があらわれるケースがあり、この睡眠サイクルの乱れが引き金となって金縛りが引き起こされると考えられているのです。
入眠してすぐのタイミングでレム睡眠があらわれると、脳は活発的な状態であるにも関わらず体は筋肉が緩んで動かない状態となるため、「目が覚めているのに動けない」と錯覚を起こすことが金縛りという体験に繋がります。
豊田早苗
とよだクリニック院長
通常のレム睡眠時は、覚醒時に認められる脳波である「α波」が50%以下となり、脳の活動は覚醒時と比べると穏やかになっています。
金縛りが起こっている時は、α波の出現頻度が覚醒時と同じ頻度にまで増加し、特に「後頭葉(大脳の後ろ側の部分)」の活動が活発化しています。
つまり、金縛りが起こっている時は、視覚情報の処理を主に行う後頭葉の活動が活発になっている一方で、自分が置かれた状況を理解する「前頭葉」や体を動かす指令を出す「運動野」は休んでいる状態という、脳の一部は眠っているが一部は覚醒しているアンバランスな状態が生じています。
このため、夢を夢と認識できず、あたかも現実に起こっているように捉えてしまい、体を動かそうと思っても全く動かすことができない金縛り状態を体験します。
金縛りの時に起きる症状
金縛りの時に起こる症状はさまざまあり、主に下記のことが挙げられます。
- 体が動かない
- 声が出ない
- 耳鳴りがする
- 息苦しい
- 幻覚や幻聴がある
レム睡眠時は、脳は活動的で体は休んでいる状態なので、「体が動かない」「呼吸がしづらい」といった感覚にみまわれやすいでしょう。
金縛りを引き起こす4つの原因
一般的に金縛りと呼ばれる睡眠麻痺は、どのような状況下で生じやすいのでしょうか。金縛りを引き起こす原因として考えられることは、以下のとおりです。
- 不規則な生活による睡眠リズムの乱れ
- 日常生活のストレスや不安
- 仰向けでの睡眠
- ナルコレプシーなどの睡眠障害
それぞれについて、以下で詳しく紹介します。
不規則な生活による睡眠リズムの乱れ
不規則な生活を送っていると、睡眠リズムが乱れて睡眠の質が低下し、レム睡眠の状態になりやすくなることから、結果的に金縛りの体験に繋がる可能性があると考えられます。
金縛り経験者は、以下のように生活リズムが乱れているケースがあるとされているため、当てはまる方は注意が必要です。
- 夜更かしによる睡眠不足
- 昼夜逆転の生活
- 長時間の昼寝
- スマホ操作やテレビ視聴をしながら寝落ち
上記のような生活によって、睡眠リズムが乱れている自覚がある方は、日々の生活習慣を見直すことから始めましょう。
睡眠の質を高める方法については後述しているので、ぜひそちらも参考にしてください。
日常生活のストレスや不安
日常的に受けるストレスや不安を抱えた生活も、金縛りを引き起こす原因の一つです。精神的・肉体的なストレスを受けていると、自律神経が乱れて睡眠の質に悪影響を与える可能性があります。
適度なストレスは、生活に張りが出て健康的な生活を送るために有効とされていますが、長期的かつ過剰なストレスは睡眠の妨げになると懸念されるため、ストレスは溜めずに解消させることが大切です。
また、仕事や家庭に関する心配事がありネガティブな感情を抱えていると、布団のなかで考え事をしてしまい、なかなか眠りにつけなくなるでしょう。
ストレスや不安を抱えていて「寝つきが悪い」「熟睡できない」と感じているのであれば、入眠直後にレム睡眠があらわれる状態を避けるためにも、心身をリラックスさせてから眠りにつくことが望ましいです。
仰向けでの睡眠
眠る時の姿勢の中でも、特に仰向け寝は金縛りの症状が起きやすいとされています。
すべてが解明されているわけではありませんが、仰向け寝は横向き寝やうつ伏せ寝よりも体の力が抜けやすい体制で、筋肉弛緩による運動麻痺が起きやすいことが理由の一つだと考えられています。
また、横向き寝は不安定な寝姿勢なのでレム睡眠が中断されやすいですが、仰向け寝は安定しており筋肉が緩んでも姿勢が変わりづらいことも理由だとされています。
ナルコレプシーなどの睡眠障害
過眠症の一種である「ナルコレプシー」の症状の一つに、睡眠麻痺があります。
ナルコレプシーとは、日中に耐えがたいほどの眠気に襲われ、どのような場面でも居眠りをしてしまう病気です。
十分な睡眠時間を確保しているにも関わらず強い眠気が生じるところが特徴で、感情の高まりによって筋肉の力が抜ける「カタプレキシー」という症状を伴うこともあります。
神経細胞の働きが低下することが原因となり引き起こされますが、頭部外傷によるストレスや遺伝との関連性もあると考えられているようです。
日中の会議中や授業中など大切な場面でも居眠りしてしまうことがあるため、ナルコレプシーの疑いがある方は医療機関を受診して適切な診断を受けることをおすすめします。
金縛りの時に「幽霊が見えた」という心霊現象が起こるのはなぜ?
金縛りは科学的にメカニズムの解明が進んでいる現象なので、幽霊やお化けが関係する「心霊現象」ではないことは前述のとおりです。
しかし、実際に金縛りにあった時に「幽霊を見た」という経験をした方は多くいらっしゃるでしょう。
金縛りが起こっている最中は、目覚めている時に近い脳の状態で夢を見るため、幻覚のような錯覚が起こりやすい状況だといえます。
さらに、恐怖・喜び・怒りといった感情を司る「扁桃体(へんとうたい)」が活性化することから、感情的な夢を見やすい傾向にあるため、恐怖心が煽られて「幽霊がいる」「誰かが体に乗ってきた」「お化けの声が聞こえる」といった体験をする場合があります。
これらの仕組みによって金縛りの最中に恐怖体験をすると、「金縛りは心霊現象で幽霊のしわざ」だと解釈されるかもしれませんが、実際には生理学的に説明できる現象です。
金縛りに不安感をもっている方もいるかもしれませんが、金縛りにあったからといって「幽霊に憑りつかれているかもしれない」と心配する必要はありません。
豊田早苗
とよだクリニック院長
金縛りは、脳の一部は覚醒しているが、一部は休んでいるアンバランスな状態が引き起こす現象です。金縛り中に見る幽霊などの物体は、活動が活発化した後頭葉が生み出した幻覚です。
夢は心の中を反映するといわれており、不安やストレスを抱えていると、夢の内容が不安や恐怖を反映した怖い夢となりやすいです。そうした怖い夢が幻覚となって目の前にあらわれるため、心霊現象と思ってしまいやすいですが、実際、心霊現象と金縛りは全く関係ありません。
金縛りの解き方を紹介
金縛りが心霊現象ではないとわかっても、不快な現象であることに変わりはないため、できる限り対策を行いたいと考える方は多いと思います。
金縛りを体験した際には無理に体を動かそうとしたり、声を出そうとしたりするのではなく、ゆっくりと呼吸をするよう心がけましょう。
深呼吸をしてリラックスすることで、金縛りは自然に解消するケースが多いとされています。
もし指先を動かせるのであれば、ゆっくり動かすと、脳が動けることを察知して、徐々に全身が目覚めることもあるようです。
金縛りが解消されたあとには、目覚めることもあればそのまま眠りにつくこともありますが、いずれにせよ自然な状態でいて問題ないとされています。
豊田早苗
とよだクリニック院長
金縛りは基本的に、数秒から数分で自然に治まります。金縛りが起こった時は、「金縛りは心霊現象ではなく、数分で自然に治まる」と自分に言い聞かせましょう。
また、金縛り解消後は、過度に不安や恐怖心が高まらないように、波の音や小川のせせらぎ、小鳥の鳴き声など、リラックス効果の高い音楽を聞いて気持ちを落ち着かせましょう。
金縛りにならないための予防法
金縛りを予防するには、睡眠直後にレム睡眠の状態にならないことを目指し、ぐっすりと眠って質の高い睡眠をとることが大切です。
それを踏まえると、金縛りの予防法として以下のことが挙げられます。
- 規則正しい生活習慣で睡眠リズムを整える
- 質の高い睡眠をとるよう心がける
- 横向きの姿勢で眠る
- 改善されない場合は医療機関を受診する
それぞれの内容について、以下で詳しく解説します。
規則正しい生活習慣で睡眠リズムを整える
不規則な生活によって睡眠リズムが乱れている方は、日々の生活習慣を見直すことから取り組みましょう。
睡眠リズムを整えるために日常生活で手軽に取り組めることは、以下のとおりです。
- 朝から太陽光を浴びる
- 規則正しい食生活を心がける
- 運動習慣を身に付ける
人の体内時計は約25時間なので、放置していればそのまま体内時計がずれていって夜型の生活になってしまいます。太陽光には体内時計を調節する役割があるため、朝から意識して太陽光を浴びるようにしましょう。
3食きちんと食べ、毎日同じタイミングで食事を済ませることも大事です。日々の食事のタイミングがバラバラだと、体内時計の乱れに繋がる可能性があるため注意してください。
また、適度な運動を生活に取り入れることもおすすめです。日中に運動を行うと体が疲労するため、夜に自然な入眠が促されやすくなります。
生活習慣の乱れは睡眠リズムの乱れにも繋がるため、規則正しい生活を心がけて健やかな毎日を送れるよう努めましょう。
質の高い睡眠をとるよう心がける
睡眠の質が低下するとレム睡眠が出現しやすくなると考えられているため、金縛りを予防するにはぐっすり眠って体と脳を休養させることも大切です。
睡眠の質を高めるためには、前述したように規則正しい生活を送ることも効果的ですが、ほかにも取り組めることは複数あります。
- 入浴して体を温める
- 就寝環境を整える
- アロマなどでリラックスする
体温が上昇して下降し始めるタイミングで眠気が促されるため、就寝時刻の約90〜120分前に入浴して体を温めることをおすすめします。38℃のぬるめのお湯で、25分〜30分ほど浴槽に浸かる方法を参考にしてください。
室温・湿度・照明といった就寝環境を整えることも、質の高い睡眠を得るためには大切な要素です。夏場は25℃〜26℃、冬場は22℃〜23℃、湿度は通年50%〜60%が理想的とされています。
使っている寝具も睡眠の質に大きな影響を与えるため、自分にとって快適な寝具選びにもこだわってください。特に体との接地面が大きいマットレス選びは重要なポイントなので、体圧分散性に優れており適度な反発力があるマットレスを選ぶようにしましょう。
また、スムーズに入眠するためにはリラックス状態でいることが大切なので、香りの良いアロマなどを活用して心を落ち着かせると良いでしょう。
横向きの姿勢で眠る
眠りが浅いことを自覚しており、金縛りの症状があらわれそうだと感じるのであれば、横向きの姿勢で眠ってみましょう。
横向き寝をする時には、枕の選び方に気を付けてください。横向き寝では肩が下側にきて高さが出るため、仰向け寝をする時よりも高めの枕を使うことをおすすめします。
体に対して枕の高さが合っていないと、寝姿勢が崩れて寝違えを起こしたり、寝返りが打ちづらくなったりする可能性があるため気を付けましょう。
改善されない場合は医療機関を受診する
金縛りの頻度が多い場合や、対策を行っても症状が改善されない場合には、何かしらの病気が関係している可能性もあります。
それにも関わらず誤った自己判断で解決しようとすると、睡眠不足を悪化させて日常生活に支障が出るかもしれません。
金縛りに対する不安が強く症状がつらいと感じる場合には、無理して我慢せずに医療機関を受診して専門家に相談するようにしましょう。
まとめ
金縛りには「幽霊を見る」「声が聞こえる」などの恐怖体験が生じるケースが多いため、心霊現象かもしれないと不安になる方は多いでしょう。
しかし、金縛りは睡眠麻痺と呼ばれる現象で、発生するメカニズムは徐々に解明されつつあります。生理学的に説明できることなので、幽霊の存在や呪いの有無などを心配する必要はありません。
金縛りは、睡眠直後にレム睡眠が出現することで発生しやすくなるとされているため、予防するためには睡眠リズムを整えて熟睡することが大切です。
今回紹介した生活習慣の改善方法を参考にして、睡眠の質を高めることで金縛りの予防ができるよう努めてください。