寒い季節になると、よく「ヒートショック」という言葉を耳にするようになると思います。入浴中の突然死というニュースを聞いて、「自分もそうなるかもしれない」と不安に思っている方は多いのではないでしょうか。
ヒートショックが起こるメカニズムをあらかじめ知っておくことで、予防に繋がるだけでなく、いざという時に対応しやすくなります。
この記事では、ヒートショックはどのようにして起こるのか、どんな人がなりやすいのかなどを解説します。ヒートショックの予防法や実際に起きた時の対処法も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
ヒートショックは急激な気温差によって起こる現象
ヒートショックとは、急な気温の変化によって血圧が急激に上下し、心臓や血管などに疾患が起こることです。「冬場の浴室でヒートショックを起こして倒れた」というケースを聞いたことがある方は多いでしょう。
ヒートショックになるとめまいや立ちくらみの症状が起こりますが、重度になると心臓発作や脳卒中などに繋がることもあるため、気を付けなくてはなりません。
ヒートショックが起こりやすい時期は、11月〜2月の冬場です。特に、入浴中の心肺停止者は、1年のなかでも気温が低くなる1月に多く、最も少ない8月と比較すると約11倍になります。これは、ヒートショックが原因で増加すると考えられているようです。
豊田早苗
とよだクリニック院長
ヒートショックが起こる前兆として、血圧の激しい上下動によって、脳血流の低下によるめまいや立ちくらみ、心臓に栄養を運んでいる血管の血流低下による胸の痛みなどが起こります。これらの症状は、脳卒中や心筋梗塞が起こる前兆の症状である場合もあります。
寒暖差の激しい環境で、めまいや立ちくらみ、胸の痛みが起こり、症状が治らない場合は、救急車を呼ぶなど早めの対応をとりましょう。
ヒートショックが起こるメカニズム
もともと体の生理現象として、周囲の温度に合わせて血圧が変動することがあります。これは、寒い場所にいると体の熱を守るため血管が収縮して血圧が上昇し、温かい場所にいると血管が開いて血圧が低下するという動きのことです。
この体の働きから、急に温度が異なる場所に行くと、血圧の上下が急激に起こってヒートショックを引き起こすと考えられています。血圧が高い方のほうが寒暖差による血圧の上下が大きいといわれており、ヒートショックになりやすい傾向にあるようです。
ヒートショックが起こりやすい場所
ヒートショックが起こりやすいのは、冬場の浴室やトイレといった寒い場所です。寒暖差によって起こるヒートショックは、暖房の効いた部屋から暖房のない寒い部屋に移動した時に起こる確率が高まります。
基本的には、10℃以上の温度差がある場所に移動すると、ヒートショックが起こりやすくなると考えられるようです。ヒートショックを避けるには、急激な血圧の変化を起こさないように気を付ける必要があります。
ヒートショックになりやすい人とは?
ヒートショックは「高齢の方がなりやすい」というイメージを持つ方は多いでしょう。高齢になると血圧のコントロールが難しくなるうえに、温度に対する感覚が鈍くなるため、ヒートショックになりやすい傾向にあります。
しかし、年齢だけでなく病気や習慣なども、ヒートショックを引き起こす要因の一つとなり得るものです。ヒートショックになりやすい人の特徴として、以下のことがあります。
- 65歳以上
- 高血圧
- 糖尿病・睡眠時無呼吸症候群・不整脈・動脈硬化・肥満などがある
- 浴室および脱衣所やトイレに暖房器具がない
- 熱い風呂が好み
- 長風呂をする人
- 食事やアルコールを摂取したあとに入浴する習慣のある人
高齢者の方はもちろん、上記の条件に当てはまる方も、入浴やトイレなどの際に寒暖差に特に気を付けながら生活しましょう。
若者もヒートショックになる可能性があるため注意
前述のとおり、ヒートショックは寒暖差による血圧の変化が原因となって起こります。つまり、血管に弾力性がある若者もなる可能性があるということです。
寒い場所から急に熱いお風呂に入ってヒートショックになる可能性は、年齢に関わらずあると考えておきましょう。
また、アルコールを飲んだあとは血圧が下がりやすいため、飲酒後の入浴もヒートショックになりやすい傾向にあります。糖尿病や不整脈などの病気を患っている方も、年齢に関わらずヒートショックになりやすいため注意しましょう。
豊田早苗
とよだクリニック院長
疾患統計として明確にヒートショックが原因と判断できる資料はありませんが、ヒートショックになる1割から2割は高齢者(65歳以上)以外の若者といわれています。
ヒートショックを予防する5つの方法
ヒートショックを予防するには、血圧の急激な変化を避けることが大切です。以下のような予防法を、年齢にかかわらず生活に取り入れていきましょう。
- 室内の寒暖差をなくす
- こまめに水分補給する
- 食事・飲酒直後の入浴は控える
- ぬるめのお風呂に入る
- 高齢者の入浴は家族と連携する
それぞれの内容について詳しく解説するので、ぜひ参考にしてください。
室内の寒暖差をなくす
冬場、暖房が効いている部屋から効いていない部屋に移動すると、急な気温の変化によってヒートショックが起こることがあります。そのため、室内の寒暖差をできるだけなくすように努めましょう。
ヒートショックが起こりやすいとされる10℃以上の温度差が生じないように、室内の温度を調整してください。エアコンなどの暖房器具を使うほか、古い住宅の場合は壁や床、窓などを断熱性の高いものに変える方法もおすすめです。
寒くなりやすい脱衣所やトイレは、暖房器具を置いて暖めておきましょう。トイレの便座の冷たい部分が肌に触れるのを防ぐためには、便座を暖める機能を使用する方法があります。
また、一番風呂に入ると浴室が暖まりきっていないこともあるため、浴槽の蓋を開ける、シャワーで給湯するなどして、しっかり浴室を暖めてから入浴しましょう。
こまめに水分補給する
体の水分が不足していると血圧が安定しにくくなり、ヒートショックが起こりやすくなるため、普段からこまめに水分補給することを心がけましょう。
水分補給するタイミングの例としては、入浴前と入浴後の両方、トイレのあと、暖房で乾燥した室内にいる時、夏場に汗をかいた時などが挙げられます。
入浴して汗をかき、体内が脱水状態になるのを防ぐためにも、入浴前の水分補給は特に大切です。入浴前にコップ1杯の水を飲むことを習慣にすると良いでしょう。
食事・飲酒直後の入浴は控える
食事やアルコールを摂取した直後は、消化のために血液が使われるので血圧が下がりやすい状態です。血圧が下がった状態で入浴すると、血圧の変動幅が大きくなってヒートショックが起こりやすくなります。
ヒートショックを避けるためには、食後1時間以内は入浴しないように心がけましょう。
ぬるめのお風呂に入る
体が冷えている状態でいきなり熱いお風呂に入ると、ヒートショックに繋がる可能性があります。湯温を41℃以上にすると心臓に負担がかかり、事故の発生率が高くなるともいわれているため、お風呂の温度は38〜40℃のぬるめに設定しましょう。
入浴は心臓への負担がかかりやすいため、湯船に入る前は手足にゆっくりお湯をかけて体をお湯に慣らす、湯船から出る時はゆっくりと出ることを心がけてください。また、体にかかる負荷が少ない半身浴をするのもおすすめです。
高齢者の入浴は家族と連携する
高齢者が入浴中にヒートショックを起こした場合のことを考えて、高齢者の入浴時には、家族と連携することが大切です。
高齢者が入浴する前に家族に声をかける、高齢者が入浴している間は5分おきに家族が様子を見に行くなど、万が一ヒートショックで倒れても、早く発見できる体制を整えておきましょう。
もし、家族やヘルパーが不在の時に高齢者が入浴する場合は、公衆浴場や日帰り温泉など、誰かが見守ってくれる環境で入浴するのも一つの手です。
また、入浴時間は、脱衣所や浴室が冷え込まない日没前までに済ませると良いでしょう。
ヒートショックが起こった時の対処法を知っておこう
ヒートショックが起こった時にすぐに対応できるように、対処法を知っておくことも重要です。
もし自分がヒートショックになってめまいや立ちくらみなどを感じた場合は、無理に動かずその場で安静にしましょう。体を動かすのは、症状が落ち着くまで待ったほうが良いとされています。
また、家族がヒートショックで倒れているのを発見した場合は、すぐに救急車を呼びましょう。浴槽内で溺れている場合はお湯を抜くという対処法があります。
救急車が来るまでは、電話口での救急隊員の指示に従って適切な処置を行いましょう。
豊田早苗
とよだクリニック院長
ヒートショックを疑う症状が起こった時、基本的に動かないことが原則です。動くことによって血圧の変動が余計に激しくなり、症状が悪化したり、重篤化したりする危険性があります。
入浴中であれば、浴槽から出るのではなく、浴槽のお湯を抜くようにしましょう。それ以外の場合は、とにかく座るようにしてください。
まとめ
急激な気温差によって起こるヒートショックは、高齢者だけでなく若者にも起こる可能性があります。部屋の寒暖差をなくす、水分を補給するなど、特にヒートショックが起こりやすい冬場は対策を行いましょう。
ヒートショックになりやすい高齢者は、家族との連携が大切です。万が一浴室で倒れた時のことを考えて、すぐに対処できる体制を整えておいてください。
実際に自分や家族がヒートショックになった時には、慌てず落ち着いて救急車を呼び、救急隊の指示に従って行動していきましょう。