「睡眠時間を90分単位で設定すると睡眠の質が高くなる」という話を聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。
しかし、「90分」という数字がどこから出てきたものなのかが分からなければ、鵜呑みにするわけにもいきません。
睡眠時間が90分単位になるように設定することは、睡眠の質を高めるために本当に効果的なことなのでしょうか。
この記事では、睡眠時間を90分単位で区切ることの是非やその根拠、睡眠の質を高めるためのポイントなどについて、説明します。
睡眠時間が90分区切りとは断定できない
「90分刻みや90の倍数で起きると目覚めが良い」と聞いたことがある方もいるでしょう。しかし、人によってレム睡眠とノンレム睡眠の周期が異なるため90分で区切る睡眠方法はおすすめできません。
レム睡眠とは、急速な眼球運動を伴うことが特徴の睡眠段階の一つで「急速眼球運動=rapid eye movements」の頭文字を取って「レム睡眠」と呼ばれています。
脳波は覚醒している時に近い状態となっており、脳や自律神経の活動レベルは高いですが、筋肉は弛緩しています。また、レム睡眠時には夢を見ることも多いです。
反対に、ノンレム睡眠は脳が眠っている状態で、眼球運動も見られず、夢を見ることもあまりありません。
ノンレム睡眠の深さはステージ1からステージ4までの段階があり、数字が大きいほど深い眠りにあるとされます。ステージ4に分類される睡眠では脳が深く眠っているため、このタイミングで起きてしまうと目覚めが悪くなる可能性があります。
紫藤佑介
メンタルドクターSidow 精神科専門医/精神保健指定医
朝に強い・弱いという体質は、その人が朝型か夜型のどちらなのかによって変わってきます。
そして、その人が朝型・夜型のどちらなのかは、実は遺伝的に決まっています。
そのため、朝に弱い方はある程度体質として受け入れる必要がありますが、生活の見直しによって改善する部分も多いため、今回の記事の内容を参考に、見直してみてください。
就寝してからの90分間が重要
90分単位での区切りが、全ての人に共通するものではありません。しかし、就寝後最初の90分に限っていえば以下の重要な意味を持ちます。
- 睡眠の質が左右される
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成長ホルモンの分泌が活発になる
就寝してからの90分間が重要な理由について、それぞれ以下で詳しく説明します
睡眠の質が左右される
レム睡眠とノンレム睡眠は交互に訪れますが、最初のノンレム睡眠が終わってレム睡眠に移行するのは、寝付いてからおよそ90分です。
ここから、目覚めが良くなるように眠りの浅いレム睡眠のタイミングで起きるために、「睡眠時間は90分単位」といわれるようになりました。
ただし、90分はあくまでも目安であり、上述したようにレム睡眠とノンレム睡眠の周期には個人差があります。最初の周期におけるノンレム睡眠で、いかに深い睡眠をとれるかによって、睡眠の質は大きく左右されます。
成長ホルモンの分泌が活発になる
寝付いてから最初の90分間は、成長ホルモンの分泌が最も盛んになるタイミングです。成長ホルモンは子供では成長を促し、大人では心身の疲れやストレスを解放、組織を修復、老化の進行を抑制する役割があるとされています。
朝起きた時に疲れが取れていると感じるかどうかは、寝付いてから最初の90分にどれだけ質の高い睡眠をとれて成長ホルモンが分泌されたかに、依存する傾向にあります。ただし、ホルモンの分泌に関しても個人差があることは、認識しておきましょう。
睡眠の質を高めるポイント
寝付いてから最初の90分の睡眠を深いものにするためには、睡眠の質を高めることが重要です。睡眠の質を高めるポイントとしては、主に以下のようなことが挙げられます。
- 就寝3時間前までに夕食をとる
- 就寝時間の約90~120分前に入浴する
- 寝る前はスマホやパソコンは触らない
それぞれのポイントについて、詳しく説明します。
就寝3時間前までに夕食をとる
寝る直前に食事をすると、食べたものを消化するために胃腸が活発に動いている状態で眠りにつくことになります。
胃腸が活発に動いているため、肉体が熟睡できない状態で眠りにつくので、睡眠における、最初の90分の質が低くなってしまいます。
食べたものを胃腸が分解し終わるには、約3時間が必要なので、寝る時間から逆算して夕食を食べ終える時間を決めましょう。
就寝時間の約90~120分前に入浴する
寝る直前の入浴は、睡眠の質を高めるうえでは好ましくありません。就寝時間の約90~120分前の入浴を意識しましょう。
入浴時間は25~30分程度、お湯の温度は38℃程度のぬるめが理想的です。そうすることで副交感神経優位の状態になるので、睡眠の質向上に繋がります。
なお、熱いお風呂に入ると、交感神経が優位になって逆に眠りにくくなってしまいます。お風呂のお湯は熱いほうが良い方もいると思いますが、睡眠の質を高めたい場合は控えることが無難です。
寝る前はスマホやパソコンは触らない
一般的に、「日光を浴びると覚醒し、夜になると眠くなる」という睡眠リズムを持っています。これには「メラトニン」というホルモンが関係しており、メラトニンの分泌量が増えると眠くなります。
メラトニンは強い光を浴びると分泌量が減り、反対に暗いところにいると分泌量が増えるようになっているので、夜になると自然と眠気を生じやすくなります。
寝る直前にスマホやパソコンの画面を見ていると、その光によって脳が昼間であると錯覚し、メラトニンの分泌量が減ってしまいます。
その結果、上手く寝付けなくなり睡眠の質も低下してしまいます。寝る約2時間前からスマホやパソコンには触らないことが理想的です。
質の高い睡眠には目覚めも重要
睡眠の質を高いものにするためには、いかにスッキリ目覚めるかも重要です。それぞれのポイントについて、以下で詳しく説明します。
毎日同じ時間に起きる
毎日同じ時間に起きて睡眠のリズムを整えることで、朝もスッキリ目覚めやすくなります。毎日同じ時間に起きることで、夜眠りにつくタイミングも自ずと決まってくるでしょう。
起床時間を安定させることは、後述する太陽の光を浴びることにも大きく関わってきます。
紫藤佑介
メンタルドクターSidow 精神科専門医/精神保健指定医
毎日寝る時間を一定にすることを意識している方もいると思いますが、それよりもできる限り起床時間を一定にすることを意識しましょう。
寝る時間が遅くなって睡眠時間が短くなっても、起床時間が一定であれば次の日少し早めに寝る、などで時間の調整が可能です。
1時間程度のずれであれば生活に大きな影響はないため、厳密に時間を決めるよりも、ある程度は幅をもって決めておくと良いでしょう。
起床後すぐに日光を浴びる
人の体内時計は25時間周期なので、1日の周期である24時間と1時間のズレが生じています。体内時計は太陽の光を浴びることでリセットされるため、目が覚めたら太陽の光を浴びることが重要です。
日光を浴びてから15時間ほど経つと自然に眠気が訪れるため、なるべく早い時間帯に太陽の光を浴びることを心がけましょう。
紫藤佑介
メンタルドクターSidow 精神科専門医/精神保健指定医
起床後すぐに日光を浴びるために、カーテンを開けて眠ることもおすすめです。
外が徐々に明るくなって光が差し込めば、網膜がそれを感知してスムーズに起きられます。
ただ、自分の起床予定時刻が日の出よりも大幅に遅い場合は、早期覚醒になってしまうため、カーテンを開けずに就寝しましょう。
最近では自動的に電気がつく照明や、時間を設定すると自動で開くカーテンも販売されているため、そういった商品を活用するのも一つの方法です。
まとめ
「睡眠時間を90分単位で設定すると睡眠の質が高くなる」という話は、レム睡眠とノンレム睡眠の周期がおよそ90分であることから来ています。
ただし、人によってレム睡眠とノンレム睡眠の周期は異なるため、万人に対して睡眠時間を90分単位で設定することをおすすめできるわけではありません。
就寝後、最初のノンレム睡眠の90分間に成長ホルモンの分泌が活発になるため、そのタイミングで質の高い睡眠をとるようにする必要があります。
就寝3時間前までには夕食を済ませる、就寝2時間前からスマホやパソコンを見ないようにするといったことを心がけて、質の高い睡眠をとりましょう。