不眠症などで寝付けない場合は、医師の処方に基づき睡眠薬を服用することがあります。しかし、服用を続けても、「最近、効き目が悪くなってきた気がする」などと悩んでいる方もいるでしょう。
この記事では、睡眠薬が効かないと感じる理由について詳しく解説します。そのうえで、睡眠薬が効かない場合に推奨できないことや、睡眠薬に頼らない対処法も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
睡眠薬が効かないと感じる理由
以下は、「睡眠薬が効かない」と感じる主な理由です。
- 誤った服用をしているため
- 服用時の体調・持病により、効き目が変化するため
- 睡眠薬に慣れて、「耐性」が生じているため
それぞれについて詳しく説明します。
誤った服用をしているため
定められた用法を守らずに服用していると、期待するような効き目が得られないケースがあります。例えば、夕方に(就寝までに相当な時間が残っているタイミングで)服用した場合、就寝時に眠気が生じない可能性があるので注意してください。
睡眠薬を服用する際は、自然な睡眠のリズムに沿って寝る15~30分前に服用し、服用後は速やかにベッドに入ることが大切です。
服用時の体調・持病により効き目が変化するため
体調がすぐれない場合や、不眠症以外の病気を抱えている場合、睡眠薬を服用しても効果を感じられないケースがあります。
うつ病や睡眠時無呼吸症候群、レストレスレッグス症候群など、ほかの病気を見落としている可能性について医師に相談しましょう。ほかの病気を発症している場合は、その治療を行ったうえで、睡眠薬の量や種類を変更するべきです。
睡眠薬に慣れて耐性が生じているため
現在、日本で使われている睡眠薬は、以下の4種類に大別されます。
- ベンゾジアゼピン系
- 非ベンゾジアゼピン系
- メラトニン受容体作動薬
- オレキシン受容体拮抗薬
タイプごとに耐性のできやすさは異なりますが、連続して服用を続けると効きにくくなる場合があります。特に、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬については、耐性が生じやすいことに注意してください。
江越正敏
ともしびクリニック 代表医師
ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は、脳の興奮を抑え、筋肉を弛緩させる作用があります。
非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬と比べ筋肉を弛緩させる副作用が少ないもので、脳の興奮を抑えます。
メラトニン受容体作動薬は、睡眠リズムを正常にする作用があります。
オレキシン受容体拮抗薬は、脳を覚醒させるオレキシンというホルモンを抑え、睡眠状態へ移行させる作用があります。
睡眠薬が効かない場合に推奨できないこと
以下は、睡眠薬が効かない場合に推奨できないことです。
- 自己判断による服用量の増加
- 市販の睡眠改善薬や、ほかの薬との併用
- 飲酒
それぞれについて詳しく説明します。
自己判断による服用量の増加
睡眠薬に限らず、薬を服用する際は、用法・用量を守りましょう。用法・用量は、副作用を最小化しつつ、効果が最大限に発揮されるように決められています。
そのため、自己判断で服用量を増やすと、副作用が生じる、または酷くなる可能性があります。
江越正敏
ともしびクリニック 代表医師
睡眠薬の服用量を自己判断で増やした場合、呼吸筋までも弛緩してしまい、呼吸が止まってしまうことがあります。睡眠薬の過料服薬で救急搬送される患者さんは非常に多いです。睡眠薬は決して自己判断では増やさないようにしましょう。
市販の睡眠改善薬やほかの薬との併用
ドラッグストアなどで購入できる市販薬(OTC医薬品)は「睡眠改善薬」であり、医師から処方される「睡眠薬」とは異なります。医師から処方された睡眠薬の効き目が悪いからといって、市販の睡眠改善薬や、ほかの薬と併用することは避けましょう。
併用すると、成分が重複して効きすぎたり、副作用が出やすくなったりする可能性があります。また、片方の薬に含まれる成分が、もう片方の薬に含まれる成分の働きを阻害する場合もあります。
江越正敏
ともしびクリニック 代表医師
ほかの睡眠薬と同時に内服することは非常に危険です。医師の処方に従わず別の病院でもらった睡眠薬と併用すると危険ですので、絶対に辞めてください。また、薬局などで市販の睡眠薬と併用することも危険です。
飲酒
アルコールと睡眠薬を一緒に飲むと、「物忘れ」「ふらつき」「おかしな行動をする」といった副作用が生じやすくなるので注意が必要です。お酒を飲んだら、睡眠薬を服用するべきではありません。
ちなみに、体重60kgの成人男性が500mlのビールを飲んだ場合、アルコールの影響が体から消失するまでの目安は3時間以上です。
あくまでも目安であり、アルコールの分解のしやすさには個人差があることにご留意ください。
睡眠薬が効かないと感じる場合の対処法
睡眠薬が効かない場合は、睡眠薬に頼るのではなく、それ以外の眠りやすくなる方法を実践しましょう。
大切なのは、生活習慣などを見直すことです。睡眠薬だけに頼っていても、不眠の根本的な解決にはなりません。以下は、睡眠薬に頼らない対処法です。
- 適度な運動を行う
- 入浴を就寝時間の約90~120分前に済ませる
- スマホやパソコンは就寝時間の2時間前までにする
- 自分に合った方法でリラックスする
各対処法について詳しく説明します。
適度な運動を行う
人間の体は、運動して疲弊すると、夜に自然な眠気が促されやすくなります。また、運動して一旦、体温が上昇してから、体温が下がるタイミングで眠気が生じます。
大切なのは、適度な運動(軽いランニングやウォーキング、ストレッチなど)に取り組むことです。就寝直前に激しい運動をすると、交感神経が優位の状態(活動モード)になり、興奮して寝付けなくなる可能性があります。
入浴を就寝時間の約90~120分前に済ませる
人間は、体の内側の体温である「深部体温」が上昇すると、スムーズに下がっていくタイミングで、自然な眠気が促されるようにできています。
なお、入浴は、就寝時間の約90~120分前に済ませましょう。就寝直前に42℃以上の熱いお風呂に浸かると、交感神経が優位になって眠りにくくなるので注意してください。
38℃のぬるめのお湯なら25分~30分程度、42℃の熱めのお湯なら5分程度の入浴時間がおすすめです。半身浴なら、約40℃のお湯で30分程度の入浴時間が目安となります。
スマホやパソコンは就寝の2時間前までにする
光を浴びると、睡眠を促すホルモンであるメラトニンの分泌が抑制されます。就寝前に電子機器などが放つ光を浴びると、脳が「現在は昼間である」と錯覚し、メラトニンの分泌が抑制されるため眠りにくくなります。
そのため、スマホやパソコン、タブレット端末といった電子機器を操作・閲覧するのは、就寝時間2時間前までに済ませましょう。寝床に入りながらテレビを視聴し続けることも避けたほうが良いです。
自分に合った方法でリラックスする
自分に適した方法でリラックスすると眠りやすくなります。以下は、リラックスできる代表的な例です。
- 音楽鑑賞
- 読書
- アロマテラピー
- 瞑想
音楽を聴くのであれば、ヒーリングミュージックなど、気分が落ち着くジャンルがおすすめです。読書やアロマテラピーなど、ほかの方法と併用するのも良いでしょう。
これら以外にも、さまざまな方法があるので、自分に合うものを見つけましょう。
ただし、就寝前にアルコールを飲むことは避けてください。一時的に入眠を促進する作用はあるものの、酔いが醒めると眠りが浅くなるほか、利尿作用があることから、尿意によって睡眠が阻害される場合があります。
また、ニコチンやカフェインには覚醒作用があります。そのため、就寝前の喫煙は睡眠を阻害します。そして、就寝時間の3~4時間前になったら、カフェインが大量に含まれている「コーヒー」「紅茶」「ココア」などを飲んだり、「チョコレート」を食べたりすることも控えましょう。
睡眠薬が効かない場合は、医師に相談することも検討
この記事で紹介した対処法を併用しても睡眠薬が効かない場合は、一人で悩まずに、医師に相談してください。
医療機関を受診すれば、自分に合った睡眠薬を処方してもらえます。上述したように、睡眠薬は4種類に大別されるので、ほかのタイプに変えると効く可能性があることを覚えておきましょう。
また、誤った方法で服用している場合にはアドバイスを受けられるほか、うつ病や睡眠時無呼吸症候群、レストレスレッグス症候群といった病気の検査や治療も受けられます。
まとめ
睡眠薬が効かない場合、「誤った服用をしているため」「服用時の体調・持病により効き目が変化するため」「睡眠薬に慣れて耐性が生じているため」といった原因が考えられます。
なお、睡眠薬が効かないからといって、「自己判断による服用量の増加」「市販の睡眠改善薬やほかの薬との併用」「飲酒」は推奨できません。
睡眠薬が効かないと感じる場合は、「適度な運動を行う」「入浴を就寝時間の約90~120分前に済ませる」「スマホやパソコンの操作・閲覧は、就寝の2時間前までにする」「自分に合った方法でリラックスする」といった睡眠薬に頼らない対処法も試しましょう。
これらの対処法を併用しても睡眠薬が効かない場合は、医療機関を受診して、医師に相談することも検討してください。