睡眠中にむせることがあると、「病気かもしれない」と不安に思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。
睡眠中にむせることを防ぐためには、睡眠中にむせるメカニズムを把握したうえで対策を練ることが大切です。
睡眠中にむせるのを放っておくと熟睡できず、睡眠の質が低下することで日中の眠気に繋がってしまうかもしれません。
この記事では、睡眠中にむせる原因や考えられる病気、対処法などについて紹介します。睡眠中にむせることでぐっすり眠れず悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
睡眠中にむせるメカニズムを解説
睡眠中にむせるのは、睡眠中に分泌される唾液が関係していると考えられます。
人は1日に約1~1.5リットルの唾液を分泌しており、睡眠中にも唾液は分泌されています。この溜まった唾液を反射的に飲み込む瞬間に、食道ではなく気管に入ってしまうとむせることがあるのです。
このように、食べ物や唾液が誤って気管に入ることを「誤嚥(ごえん)」と呼びます。
起きている時にもむせることはありますが、仰向け寝をしていると重力によって唾液が口腔内に溜まりやすくなるため、これが「睡眠中にむせる」という現象に繋がると考えられるでしょう。
睡眠中にむせる原因として考えられる病気
睡眠中に唾液が溜まってむせるのは誰にでもあり得ることなので、一時的であればさほど心配する必要はないケースが多いです。
しかし、あまりにも頻度が多く慢性的な場合には、何かしらの病気が関係している可能性もあります。
睡眠中にむせる原因として考えられる病気は、主に以下のとおりです。
- 唾液誤嚥(だえきごえん)による誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)
- 睡眠時無呼吸症候群(すいみんじむこきゅうしょうこうぐん)
- 逆流性食道炎(ぎゃくりゅうせいしょくどうえん)
それぞれの概要について、以下で詳しく紹介します。
唾液誤嚥(だえきごえん)による誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)
食べ物を唾液と絡めながら咀嚼して、大きさを整えてから飲み込む機能のことを「嚥下(えんげ)機能」と呼びます。
唾液誤嚥(だえきごえん)とは、本来であれば食道に入るべき唾液が誤って気管に入ってしまうことです。この時に唾液の細菌が気管に入ってしまうと、「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」を引き起こす可能性があるため注意しなくてはなりません。
誤嚥性肺炎になると、通常の肺炎と同様に発熱・咳・痰といった症状があらわれますが、場合によっては倦怠感や食欲不振が見られることもあります。
誤嚥性肺炎は高齢者の方に多く見られる肺炎ですが、薬に対して抵抗力を持った菌が増えて薬が効きにくくなる可能性もあるため、適切な治療を受けて完治を目指すことが大切です。また、高齢者は感染を起こしても発熱しないことがあるため、発熱がなくても誤嚥性肺炎を起こしている可能性を考える必要があります。
唾液誤嚥が続き、誤嚥性肺炎を疑う際には、医療機関を受診して専門家の指示を仰ぐことをおすすめします。
睡眠時無呼吸症候群(すいみんじむこきゅうしょうこうぐん)
睡眠時無呼吸症候群(すいみんじむこきゅうしょうこうぐん)とは、睡眠中に何度も呼吸が止まり、低酸素状態に陥る病気のことです。
睡眠時無呼吸症候群には、気道が狭くなることで起こる「閉塞型」と、脳の働きが低下することで起こる「中枢型」がありますが、多くが閉塞型に分類されます。
閉塞型の睡眠時無呼吸症候群になる原因の一つが肥満です。肥満の方は首周りに蓄積している脂肪が多いため、気道が狭まりやすくなっています。気道が狭まって空気の通り道が塞がれることで、睡眠中のむせに繋がることがあるのです。
睡眠時無呼吸症候群になると、睡眠中にむせる以外にもさまざまな症状があらわれます。
- いびき
- 喉が渇く
- 頭痛
- 倦怠感など
睡眠時無呼吸症候群は、高血圧・心筋梗塞・脳梗塞などのリスクも高めるとされているため、心当たりがある方は医療機関を受診して適切な治療を受けてください。
安部浩一
医療法人社団 仁明会 安部医院 院長
中枢型の睡眠時無呼吸症候群の場合でも、無呼吸の状態に変化はありません。唾液が貯留し、気管に流れるとむせます。
逆流性食道炎(ぎゃくりゅうせいしょくどうえん)
炭酸飲料をよく飲む、食後にすぐに横になるなどの習慣により、胃酸が食道に上がってしまう逆流性食道炎(ぎゃくりゅうせいしょくどうえん)という病気でもむせる可能性があります。
このような習慣に心当たりの人は、普段の生活習慣の改善も必要な場合があります。
むせる原因を年代別に紹介
睡眠中にむせる原因は年代によって異なるケースがあります。
- 赤ちゃん
- 子供
- 若者
- 高齢者
上記4つの年代に分け、それぞれで多い原因について以下で紹介します。
赤ちゃん
新生児期や乳児期の赤ちゃんは、胃や下部食道括約筋(胃と食道の間にある筋肉)の機能が未熟なので、むせることは珍しくありません。
このように身体的な機能の発達が関係して睡眠中にむせている場合、1歳近くになると症状が改善されていくとされています。
赤ちゃんがむせる時には背中を軽く叩いてあげ、呼吸が落ち着くのを待つと良いでしょう。
ただし、改善しない場合には原因が別にある可能性も考えられるため、小児科医を受診して適切なアドバイスをもらうことをおすすめします。
子ども
成長して呼吸に関する機能も発達した子どもの場合、睡眠中にむせるのは小児の睡眠時無呼吸症候群が原因となっているのかもしれません。
子どもの成長に伴って扁桃腺が肥大化すると、睡眠時無呼吸症候群の症状があらわれて睡眠中にむせたり激しく咳き込んだりすることがあります。
また、「副鼻腔炎(ふくびくうえん)」や「アレルギー性鼻炎」を抱えている場合、鼻水がのどに下りてきてむせてしまうケースもあります。
子どもが睡眠中にむせる原因は人それぞれ異なりますが、慢性的になって治らない場合やつらい症状が続く場合には、医療機関を受診しましょう。
若者
10代後半以降のいわゆる「若者」と呼ばれる年齢になってくると、「ストレートネック」が原因となって睡眠中にむせることがあります。
ストレートネックとは、通常であれば緩やかなカーブを描いている首の骨が真っすぐになった状態のことです。長時間のデスクワークやパソコン・スマホ操作など、同じ姿勢を長く続けることが原因で引き起こされます。
ストレートネックになると首が前に突き出た姿勢になりますが、このように正しい姿勢が崩れてあごが反った状態になると、気管の働きが鈍りやすくなります。すると若いのにも関わらず嚥下しやすくなり、結果的に睡眠中にむせてしまうことに繋がることがあるのです。
ストレートネックは症状を指す言葉なので病気ではありませんが、ストレートネックが慢性的になると頭痛やめまいといった体調不良に繋がる可能性もあるため注意してください。
高齢者
高齢者が睡眠中にむせるのは、加齢によって生じる病気や身体機能の低下が原因だと考えられるでしょう。
歳を重ねると、病気を患うことも多くなり体力や筋力は徐々に低下してきますが、これらの機能が衰えることで「嚥下障害(えんげしょうがい)」が起こりやすくなります。
嚥下障害とは、食べ物や飲み物を上手く飲み込めなくなる障害のことです。高齢者になると筋力が低下するため、飲み込む力も弱くなって嚥下しづらくなり、唾液や食べ物が気道に入ってむせるという症状に繋がることがあります。
食べ物を上手く飲み込めずに口内に留まった状態になると、不衛生な口内環境で細菌が繁殖しやすくなり、前述した「誤嚥性肺炎」を引き起こす可能性もあるため気を付けなくてはなりません。
誤嚥性肺炎を引き起こす状況を避けるためには、気道に細菌が入ることを防ぐために口内を清潔に保つことが大切です。食後にきちんと歯磨きをしたり食べ物をしっかり咀嚼したりして、衛生的な口内を保つよう心がけましょう。
寝姿勢を工夫して睡眠中にむせることを防ごう
睡眠中にむせて悩んでいる方は、寝姿勢を工夫してむせないための対策を行いましょう。睡眠中にむせる症状を防ぐためには、仰向け寝ではなく横向き寝で寝る方法がおすすめです。
仰向け寝で寝ると、口腔内に唾液が溜まりやすいことから唾液誤嚥が生じやすくなります。
一方、横向き寝をすると「咽頭側壁(いんとうそくへき)」に唾液を溜められるため、口腔内に大量の唾液が溜まることが少なくなり誤嚥によってむせる可能性も減少すると考えられるのです。
なお、横向き寝をすると肩が下側にきて首・頭の位置が高くなるため、仰向け寝をする時に使っている枕よりも少し高めの枕を使うことをおすすめします。
横向き寝では、仰向け寝よりも体と床の接地面が少なくなることから、体にかかる圧力が多くなる点も注意してください。体圧が集中することによる体の痛みを防ぐためには、「体圧を分散できるマットレスを使う」「クッションを活用して体圧を上手く分散させる」などの対策が大切です。
ただし、横向き寝で寝る方法はあくまでも一時的な対処法であり、睡眠中にむせる症状が全快するわけではありません。
慢性的に睡眠中のむせが起こるのであれば、医療機関を受診して原因を診断してもらい、治療のためのアドバイスを受けて改善を目指しましょう。
安部浩一
医療法人社団 仁明会 安部医院 院長
横向きで眠ると、重力により口蓋垂(のどちんこ)、舌根が下がらないため無呼吸が起きにくくなります。また、誤嚥の元となる唾液が横向きにより口から排泄しやすくなります。
まとめ
睡眠中にむせてしまうのは、溜まった唾液が食道ではなく気道に入ることが原因だと考えられます。
睡眠時のむせは誰にでも起こることなので、特別な心配はいらないケースも多いですが、気道に細菌が入ることで「誤嚥性肺炎」を引き起こす可能性があることには注意してください。
睡眠中にむせることを防ぎたい方は、横向き寝を試してみてはいかがでしょうか。仰向け寝をするよりも口腔内に唾液が溜まりづらく、睡眠中にむせる症状を少なくできる可能性があります。
しかし、睡眠中にむせる症状が長期間続く、ほかにもつらい症状が出ているといった場合には、何かしらの病気が隠れている可能性もあるため、医療機関を受診して専門家の指示を仰ぐようにしましょう。