普段から仕事や家事が忙しいと、昼間や夕方などに急な眠気に襲われ、ついうたた寝をしてしまうこともあるでしょう。
日中にうとうとすることは誰にでもありますが、うたた寝が多い場合は、普段質の高い睡眠をとれていない可能性があるので注意が必要です。
この記事では、うたた寝の意味や質の高い睡眠をとる具体的な方法を紹介します。
「うたた寝(転寝)」の意味
うたた寝とは、眠気に負けてしまい、ベッドに入らずその場で寝てしまうという意味を指す言葉です。
一般的には「うたた寝」の4文字で表現されることが多いですが、漢字2文字で「転寝」とも書きます。
夜によく眠れなかったり、疲れが溜まっていたりすると、本来活動している昼間や夕方などの時間帯に眠気に襲われてしまい、うたた寝をしてしまう場合があります。
うたた寝と居眠り・昼寝の違い
うたた寝と似たような言葉に「居眠り」や 「昼寝」がありますが、実はそれぞれ意味が少し異なります。居眠りは「座ったり腰かけたりしたまま眠ること」を意味します。
授業中や仕事中など眠ってはいけないタイミングで寝てしまう際に使われるケースが多く、ネガティブなニュアンスを含んでいる点が特徴です。
また、昼寝は「お昼の時間に眠ること」を指します。うたた寝は「不意に寝てしまう」という意味合いを含む言葉ですが、昼寝はうたた寝よりも計画性のある睡眠だといえるでしょう。
うたた寝の注意点
うたた寝をすると、睡眠の質が低下する可能性があるので注意してください。
人の体は午後から夜に向かって眠気が蓄積し、寝つく直前に頂点に達する仕組みになっています。眠気が頂点に達した時が、ぐっすり眠れるタイミングです。
しかし、うたた寝をすると蓄積した眠気が中途半端に発散されてしまい、夜に寝つけなくなる場合があります。夜の時間帯に気持ち良く眠るためにも、できるだけうたた寝は避けるように心がけましょう。
なお、昼過ぎの時間帯までのうたた寝は、夜の睡眠に与える影響が少ないといわれています。どうしてもうたた寝をしてしまう場合は、昼過ぎまでに留めると良いでしょう。
うたた寝の時間は20分以内を目安として、寝過ぎないようにします。寝る前にカフェインを摂取すると、短時間の睡眠でもすっきりと目覚めやすくなります。
急な眠気に!その場でできるうたた寝対策
日中に眠気を感じた時、ほんの一時うたた寝をすればすっきりできることがあるかもしれません。時間や状況が許せば寝たくなりますが、夜の睡眠に影響があるため、可能な限り日中のうたた寝はしないように努力しましょう。
ここでは、仕事中や授業中に急な眠気を感じた際、その場で簡単にできるうたた寝対策として、以下の4つを紹介します。
- 意図的に息を止める
- ストレッチをする
- ツボを押す
- 体温調節をする
意図的に息を止める
眠いと感じたタイミングで、意図的に息を止めることで簡単に眠気を解消できます。
眠気が解消される原理としては、息を止めることで酸素が減少していると脳が感じて酸素を得ようとし、呼吸を再開した瞬間にすぐに脳に酸素が共有されて活性化するためです。
眠気を覚ますためのポイントは少し苦しいと感じるまで止めることです。
ただし、過剰に行うと低酸素状態になってしまうため注意しましょう。
ストレッチをする
急な眠気を覚ますには、適度に体を動かすこともおすすめです。運動をしている最中は血流が良くなり、交感神経が優位となるため脳が活性化され眠気を感じにくくなります。
仕事中や授業中に、走ったり筋トレしたりと激しい運動を取り入れることは難しいですが、座ったままできる簡単なストレッチをするだけでも運動による効果は期待できます。
場所や状況に合わせて、伸びをする、胸を開く、腕を伸ばす、アキレス腱を伸ばすなど、簡単なストレッチを取り入れてみましょう。座った状態から立ち上がるだけでも効果は期待できます。
ツボを押す
運動による血流改善が眠気対策に効果的と紹介しましたが、血流を改善する別の方法に「ツボ押し」があります。
「ツボ」とは、東洋医学に基づいた考え方の一つで、全身にある神経が交差する場所を指します。ツボを刺激することで、血流の改善やさまざまな効果が期待でき、眠気に効果があるツボもあります。
ここでは、眠気に効果的な5つのツボをご紹介します。
- 合谷(ごうこく):親指と人差し指の骨が合わさる部分にあるツボ。手にあるツボのため、仕事中や授業中でも周りを気にせず、手軽にマッサージができる。
- 中衝(ちゅうしょう):中指の爪の人差し指寄りの生え際にあるツボ。目が覚める効果や気持ちを静める効果がある。
- 風池(ふうち):首のうしろで髪の生え際付近にあるツボ。リフレッシュ効果が期待できる。
- 晴明(せいめい):左右の目頭の上でやや鼻寄りにあるツボ。眠気に効果的なだけでなく目の疲れにも効果的で、目の前がすっきりする。
- 心(しん):左右の耳の中心にあるツボ。指では刺激が少ないため、ペンや爪楊枝を用いるのがおすすめ。
ツボ押しをする時のポイントは、骨の裏側を意識してしっかりと押すことです。ツボ押しは場所を選ばず作業中でも簡単にできるので、ぜひ取り入れてみてください。
体温調節をする
眠気を上手にコントロールするためには、体温調節が重要です。
ここで言う体温調節は体表面の温度ではなく、脳や内臓、筋肉の温度を指す「深部体温」を指します。
人間の深部体温は、夕方から夜にかけて高くなり、就寝時に近くなると急激に低下します。寝る時に布団に入ると、手足が温かくなり寝てしまうことがあるかもしれませんが、この時の手足の温かさは、深部体温の上昇によるものではありません。
眠りが近くなると、副交感神経が優位になり、手足が温かくなります。手足の温度が上昇すると、血流が増加し、熱放散が起こります。そして、熱放散の結果として深部体温が下がることで眠りにつきます。
そのため、眠気覚ましには手足が温かくならないように心がけ、深部体温を調節する必要があります。
うたた寝をしないためには質の高い睡眠をとることが大切
日中に急な眠気に襲われてうたた寝をしてしまう場合は、睡眠の質が低いのかもしれません。睡眠をとるうえでは、長時間眠ることよりも「睡眠の質」を向上させることが大切です。
睡眠の質が低く寝不足の状態が続くと、感情の制御や意欲、集中力、注意力などに関わる脳の前頭葉がダメージを受け、日中のパフォーマンスが下がります。
また、睡眠不足が糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病に繋がる可能性もあります。
しかし、質の高い睡眠をしっかりとれば心身の疲労が回復し、日中も活発に活動することが可能になるでしょう。
「睡眠時間は確保できているのにうたた寝をしてしまう」という方は、この機会に睡眠の質を見直しましょう。
ただし、睡眠の質が高くても、睡眠時間が短すぎると寝不足になる可能性があるので注意してください。
日本の成人の睡眠時間は6時間以上8時間未満の方がおよそ6割を占めており、これが標準的な睡眠時間と考えられています。
寝不足を感じている方は睡眠の質の向上を目指しつつ、睡眠時間を確保すると良いでしょう。
楠裕司
渋谷睡眠・呼吸メディカルクリニック 院長
自分にとって適切な睡眠時間を客観的に評価することは難しいです。その中で目安になるのは、「スッキリと目覚めることが出来ているか」です。
昼食後に眠くなる、朝すぐに布団から出られない、日中にぼーっとするなどの自覚がある場合、睡眠時間が足りていない可能性があります。
質の高い睡眠をとる方法【食生活編】
先述したように、うたた寝をせずに日中に活発に活動するには普段の睡眠の質が重要です。
ここからは、「食生活」「生活習慣」「就寝環境」の3つのカテゴリごとに睡眠の質を高める方法を紹介するので、ぜひ参考にしてください。
まずは食生活において大切なポイントを見ていきましょう。
- 夕飯は就寝3時間前までに済ませる
- ヘルシーな食事をこころがける
- 朝食をしっかり摂る
- 就寝前に温かい飲み物を飲む
夕飯は就寝3時間前までに済ませる
一般的には、食事をしてから消化するまでには3時間程度かかるといわれています。
就寝直前に食事をとると睡眠中でも消化活動をするために胃腸が働いてしまい、目が覚めやすくなったり、深い眠りに入れなかったりするので、夕飯の時間帯には注意が必要です。
就寝時に消化活動を終わらせておくためにも、夕飯は就寝3時間前までには済ませましょう。
ヘルシーな食事をこころがける
肥満体質の方は、できるだけヘルシーな食事を心がけると良いでしょう。肥満体質だと首やのど周辺の余分な脂肪が上気道を塞いでしまい、睡眠時無呼吸症候群を引き起こす可能性があります。
睡眠時無呼吸症候群になると睡眠中に呼吸が止まることで目が覚めてしまい、睡眠の質が低下します。
睡眠時無呼吸症候群を予防して快適に眠るためにも、カロリーが高すぎる食事はなるべく控えましょう。
朝食をしっかり摂る
朝食をしっかり摂ることで体内時計をリセットし、夜の睡眠の質を高めます。また、朝食を摂ると血糖値が上昇し、午前中の活動性や脳の働きを良くする効果も期待できます。
朝食におすすめの食材は、最近注目されている大豆製品です。減塩の味噌汁などもおすすめです。
就寝前に温かい飲み物を飲む
入眠までに時間がかかる方は、就寝前にハーブティーや生姜湯、白湯やホットミルクなどの温かい飲み物を飲むことをおすすめします。
人は深部体温が下がる時に、寝つきが良くなる生き物です。就寝前に温かい飲み物を飲んで体温を上昇させれば、その体温が下がるタイミングで自然と眠ることができるでしょう。
ただし、温かい飲み物だとしても、下記のようなカフェインやアルコールなど覚醒作用のある飲み物は控えてください。
覚醒作用のある飲み物を就寝前に飲んでしまうと、逆に眠れなくなります。
- お酒全般
- コーヒー
- ココア
- エナジードリンク
- 緑茶 など
質の高い睡眠をとる方法【生活習慣編】
睡眠の質は、普段の生活習慣も大きく関係しています。
ここからは睡眠の質を高めるために生活をするうえで意識したいポイントを紹介するので、ぜひ実践してください。
- 入浴は就寝90分前に
- 適度に運動をする
入浴は就寝90分前に
睡眠の質を高めたい方は、就寝90分前にぬるめのお湯にゆったり浸かることをおすすめします。
入浴をすると体をリラックスさせる副交感神経が優位になるため、入眠しやすくなります。
また、入浴によって深部体温が上がると、お風呂上りに体温が下がるタイミングで眠気を誘発させることが可能です。
就寝時間の約90分前までに入浴を済ませておけば、丁度良いタイミングで眠気が訪れるでしょう。
ただし、お湯が熱すぎると、体を覚醒させる交感神経が活発になるので注意してください。
入浴は38℃のぬるめのお湯で25分~30分程度、半身浴なら約40℃のお湯で30分程度にすることをおすすめします。42℃くらいの熱めのお湯が好きな場合は、入浴時間を5分程度に留めるなどして工夫しましょう。
楠裕司
渋谷睡眠・呼吸メディカルクリニック 院長
夏場など暑い季節でも、毎日入浴することが望ましいです。しかし、どうしても難しい時はシャワーで首筋をしっかり温めてあげると、深部体温が上がり、睡眠に効果的です。
適度に運動をする
普段運動する機会が少ない方は、日常に運動を取り入れましょう。適度に運動をすると寝つきが良くなり、睡眠の質が高まります。1回の運動だけでは効果が弱いため、できるだけ習慣的に続けると良いでしょう。
ただし、激しい運動は逆に睡眠を妨げます。睡眠の質を高めるために運動をするのなら、負担が少なく長続きしやすいランニング、早足での散歩など軽めの有酸素運動がおすすめです。
なお、夕方から夜の時間帯に行う運動は特に効果的だといわれています。時間に余裕がある場合は、運動をするタイミングも意識すると良いでしょう。
質の高い睡眠をとる方法【就寝環境編】
質の高い睡眠をとるには、就寝環境も重要な要素です。
食生活や生活習慣に気を配っていても、就寝環境が良くないと快適に眠ることはできません。
ここからは、就寝環境を整えるポイントをいくつか紹介します。
- 体に合った寝具を使う
- リラックス効果のある音楽を聴く
- アロマオイルを焚く
- 就寝前にスマホやパソコンを操作しない
- パジャマに着替えて寝る
体に合った寝具を使う
横になった時に寝づらさを感じている方は、自分の体に合った寝具に買い替えてみましょう。
枕やマットレスなどの寝具が自分に合っていないと、寝づらさを感じてなかなか眠れない場合があります。
寝具には多種多様な種類がありますが、体格や好みの寝心地は人によって違うため、寝具の合う・合わないもそれぞれ変わってきます。
寝具が体に合っていないと感じる場合は、自分に合う寝具を見つけてください。
楠裕司
渋谷睡眠・呼吸メディカルクリニック 院長
人間が寝る時の基本姿勢は仰向け寝だといわれています。しかし、寝姿勢にはそれぞれ良い点・悪い点があるので、一番寝やすい姿勢を基本としてください。
仰向け寝は体の圧が分散され、血流も良くなりますが、いびきをかく人の場合、いびきを悪化させます。横向き寝は寝付きやすい人が多いですが、体のゆがみが出やすいので注意が必要です。うつ伏せは短時間の睡眠をとる時には良いですが、首の負担が大きいため長時間の睡眠には向きません。
リラックス効果のある音楽を聴く
就寝前はよりリラックスした状態を保つためにも、気分の落ち着く音楽を聴くことをおすすめします。
ヒーリングミュージックなどのリラックスできる音楽を聴いて気分が落ち着けば、より眠りやすくなるでしょう。
ヒーリングミュージックには自然の音が入ったものやクラシック調のものなど、さまざまな種類があります。時間がある時に、自分のお気に入りの音楽を探してみると良いでしょう。
アロマオイルを焚く
ストレスを抱えていると、就寝前に考え事をしてしまって寝つけない場合があります。そんな時は、アロマオイルを焚いてみてください。
アロマオイルの心地良い香りでストレスを和らげれば、よりリラックスした状態で眠れると考えられています。心地良い香りから自然と呼吸も深くなり、眠りやすくなるでしょう。
アロマオイルにはいくつか種類がありますが、「普段からアロマオイルを焚かないのでどれを選べば良いかわからない」という方は、就寝時の使用に特化した製品を選ぶことをおすすめします。
就寝前にスマホやパソコンを操作しない
スマホやパソコンを寝る前に操作すると、画面から発せられる光によって脳が覚醒してしまい、眠りにくくなるので注意してください。
テレビも同様に、画面からの光によって脳が覚醒してしまいます。
スマホやパソコンなどの画面を見るのは就寝2時間前までに留め、不意に操作しないようにベッドから遠い位置に置いておきましょう。
パジャマに着替えて寝る
パジャマに着替えて寝ると、脳が睡眠モードになって気持ちの切り替えができます。
パジャマは体を締め付けない、ゆったりとしたサイズを着用し、汗を吸いとる吸湿性や体を温める保温性がある素材を選ぶと快適に眠れます。
ジャージやスウェットで寝ている方は多いかもしれませんが、パジャマとしての用途にはあまり向いていません。化学繊維のものは肌触りが悪くて汗を吸い取りにくく、袖口のゴムが窮屈に感じることもあります。
まとめ
うたた寝をせずに日中に活動するためには、質の高い睡眠をとることが大切です。
お昼や夕方の眠気がひどい場合は、食生活や生活習慣、就寝環境に目を向けて睡眠の質を向上させましょう。急な眠気におそわれた時は、この記事で紹介した手軽な対策もお試しください。
また、睡眠時間が短すぎる場合は、まず眠るための時間を確保するようにしましょう。多くの日本人の平均睡眠時間とされる6~8時間を目安としながら、自分にとって心地良い睡眠時間を見つけましょう。