睡眠中に突然動き回る症状がある場合に疑うべきなのが、睡眠障害の一種である「夢遊病」です。
自身や家族に夢遊病の疑いがある場合は、症状を理解して対応を検討することが大切です。知識を深めれば抱えている不安を解消できるのはもちろん、正しい対処を行うことにも繋がります。
この記事では、夢遊病の原因や症状などについて紹介します。
夢遊病の疑いがあると感じている方は、ぜひ参考にしてください。
夢遊病とは眠っている時に起こる睡眠障害の一種
夢遊病とは、睡眠中に寝ぼけたような行動が起きる病気「睡眠時随伴症」の一つで、「ノンレム睡眠」と呼ばれる深い眠りの時に生じる睡眠障害のことを指します。
夢遊病は「睡眠時遊行症」とも呼ばれており、睡眠中に起き上がって歩き回るなどの行動をとるのが特徴です。
夢遊病の症状によって動き回っていても、その行動は深い眠りの時に生じているため、本人は覚えていないことがほとんどです。
そのため、周囲の人に睡眠中の行動を指摘されて初めて知る場合もあります。
夢遊病はノンレム睡眠の割合が成人よりも多い3歳〜12歳頃の子供にみられるケースが多く、一般的には成長とともに症状も少なくなっていくといわれています。
ただし、子供が発症しやすいというだけで、夢遊病はどの年齢でも起こり得るため注意が必要です。
佐久間一穂
ミチワクリニック 院長
夢遊病の症状は、脳が夢を見ることで運動神経に強い刺激が送られ、無意識に体を動かしてしまう状態なのかもしれません。発症のメカニズムははっきりと解明されておらず、研究が進められている途中です。
脳の睡眠・覚醒の機能の未熟さ、遺伝要因、心身のストレス、睡眠時無呼吸症候群、認知症、薬・物質の影響などが、睡眠中の体の覚醒状態を高める可能性として挙げられます。
「寝ぼけ」と夢遊病の違いとは
寝ぼけたような行動を起こすという点で、夢遊病と「寝ぼけ」は似ていますが、それぞれの主な違いは、本人に意識があるかどうかです。
「寝ぼけている状態」とは、目が覚めてもぼんやりしており、夢うつつな状態を指します。ぼんやりしているものの、意識はある状態です。
一方、夢遊病は深い眠りの時に生じるものであり、本人も睡眠中に起こした行動については覚えていないケースがほとんどです。
深い眠りの時に生じている症状である以上、本人に意識はないと考えられます。
夢遊病が発生する主な原因
夢遊病が発生する原因は、主に下記の6つにあると考えられています。
- 睡眠不足
- ストレス
- 生活リズムの乱れ
- 発熱を伴う感染症
- アルコールの摂取など
また、夢遊病は遺伝的な原因も関係すると考えられており、親が過去に夢遊病を発症していた場合は子供も発症しやすいといわれています。
佐久間一穂
ミチワクリニック 院長
精神的ストレスや睡眠不足、飲酒などは、睡眠の質を低下させて夢の内容にも影響するため、夢遊病を起こしやすいと考えられます。また、抗不安薬や睡眠薬は、ノンレム睡眠の時間を増やすため、夢遊病が生じるケースが少なからず認められます。
また、遺伝の関連性については、双生児の大規模研究にて、遺伝的な影響は小児睡眠時遊行症では男児66%、女児57%、成人の睡眠時遊行症では男性80%、女性36%との結果が報告されています。遺伝子HLA-DBQ1に類似した対立遺伝子が夢遊病などの睡眠障害に影響しているとの報告もあります。
夢遊病の主な症状
自分、または身近な人に夢遊病の疑いがある場合は、発症の有無を判断するためにも具体的な症状を把握しておきましょう。
夢遊病の症状として、主に下記のようなものがあります。
- 睡眠時に起き上がり歩き出す
- ベッドから飛び出して走り回る
- 起床後に症状のことを話しても覚えていない
睡眠中に発生した症状は、数分〜30分程度続き、自然に終わっていくのが特徴です。
また、症状が終わった後は、ベッドではなく違う場所で寝てしまう場合もあります。
佐久間一穂
ミチワクリニック 院長
夢遊病の疑いで医療機関を受診した場合、ビデオ撮影をしながらの終夜ポリソムノグラフィ検査を行います。一泊入院し、夜間に睡眠中の脳波や筋肉の状態をはかる機械を取り付けて眠り、ビデオ撮影もして睡眠中の様子を確認します。
治療としては、家の外に出ないようにする、また危険な障害物への衝突がないよう睡眠環境を整えるだけで良いことが多いです。ただし、外出の危険や日中の眠気といった支障がある場合には、クロナゼパムなどの覚醒を抑えて異常行動を抑制する薬で治療を行います。
夢遊病の亜種は症状が異なる
夢遊病は「睡眠時に起き上がり歩き出す」という症状が特徴ですが、夢遊病の亜型である「睡眠関連摂食障害」「セクソムニア」を発症している場合は、また違う症状があらわれる場合があります。
睡眠関連摂食障害とは、睡眠時に起き上がって無意識のうちに食べ物を食べてしまう睡眠障害のことです。
正確な原因は分かっていませんが、ストレスや睡眠不足などが主な原因だと考えられています。比較的女性が発症しやすい睡眠障害の一種です。
一方、セクソムニアは、睡眠中の無意識な状態で性の関連行動が生じる睡眠障害を指します。男性に多くみられる病気であり、主に薬やアルコールなどの影響が原因であると考えられています。
夢遊病の発症が心配な場合に気を付けたいポイント
先述したように、夢遊病は睡眠不足やストレスなど、さまざまな要素が発症の原因になるといわれています。
夢遊病の発症が心配な方は、原因となる要素を取り除くためにも下記の3点に気を付けましょう。
- 睡眠不足を解消する
- アルコールの摂取を控える
- ストレスケアをする
それぞれのポイントについて、以下で詳しい内容を紹介します。
睡眠不足を解消する
「最近よく眠れていない」という方は、睡眠不足を解消しましょう。夢遊病にかかわらず、睡眠障害の解消には、しっかり睡眠をとって正しい睡眠リズムを意識する必要があるといわれています。
睡眠不足は普段の生活や就寝環境に気を配り、眠りの質を高めると解消に近づきやすくなります。
以下に、眠りの質を高める方法の例をいくつか紹介します。
- 就寝2時間前に入浴する
- 自分に合った寝具を使う
- 寝酒を控える
- 就寝3時間前までに適度な運動を行う
- 眠る前にリラックスできるアロマオイルを焚く
いずれも、簡単に試せる方法になるので、日常に取り入れてみましょう。
アルコールの摂取を控える
成人の方は、飲酒によって夢遊病の症状が発生する場合があります。
身近な人に夢遊病の症状が出ている際は、お酒を控えさせるようにしましょう。
夢遊病の症状が軽い場合、お酒を控えることで緩和することもあります。
ストレスケアをする
精神的なストレスを抱えていると、夢遊病の原因となる可能性があります。
明らかにストレスを抱えていると感じる場合は、趣味を見つけたり休暇をとったりしてストレス解消に向けて行動することが大切です。
また、ストレスは夢遊病だけでなく「うつ病」「自律神経失調症」など、さまざまな病気の原因となり得るほか、体調の悪化にも繋がる可能性があります。
健康的な生活を送るためにも、ストレスはできるだけ軽減しましょう。
なお、ストレスへのケアが難しい方は、心療内科や精神科に相談するのも選択肢の一つです。
まとめ
夢遊病の現象が発生すると不安を覚えるかもしれませんが、症状は年齢が上がるにつれて減っていくといわれています。
危険な障害物への衝突がない環境であれば、そこまで心配する必要はないでしょう。
睡眠不足の解消やストレスケアによって、症状が緩和される可能性もあります。日頃の生活の乱れに心当たりのある方は、生活習慣などを見直してみましょう。
ただし、症状が続く場合や不安に感じる場合には、心療内科や睡眠外来などの医療機関へ相談することをおすすめします。