子どもが睡眠中、急に大声で泣いたり起き上がって叫んだりして、びっくりした経験を持つ方は多いかもしれません。
これらの行動によって、生活に支障をきたす状態を「夜驚症(やきょうしょう)」と呼びます。
症状が起きている間、本人はパニック状態になるため、一見すると「怖い」と感じることもあり、「治療できるのか?」と不安に思っている親御さんも多いでしょう。
この記事では、夜驚症について考えられる原因や対処法などについて解説します。
子どもが夜驚症かもしれないと悩んでいる方や、大人なのに夜驚症のような症状があり悩んでいる方はぜひ参考にしてください。
夜驚症であらわれる症状
夜驚症とは、寝ている時に突然目を覚まし、恐怖を感じたり興奮したりする表情を見せて、急に異常な行動を起こす状態のことです。
夜驚症であらわれる症状には、一例として以下のようなものがあります。
- 泣き叫ぶ
- 悲鳴
- パニック状態
- 汗をかく
基本的に、夜驚症は子どもに見られる症状です。3歳~7歳くらいの子どもに多くあらわれ、子どもの2~7%が発症するといわれています。
頭は寝ている状態なので、行動時は外部からの反応に乏しく、起きた時に覚えていないことが多いようです。
症状が起こるのは、深いノンレム睡眠が出やすい、睡眠時間の最初の3分の1くらいのタイミングとされています。その際、大体が1~10分ほどでおさまり、症状が長く続くことはありません。
夜驚症と夜泣きとの違い
夜驚症と似た症状に「夜泣き」があり、この2つは混同しやすいですが、大きな違いがあります。
夜泣きは、比較的浅い睡眠時に起こる症状です。親が抱っこする、電気がつくなどして子どもの目が覚めると、泣き止むこともあります。
一方で、夜驚症は深いノンレム睡眠時に起こり、何をしても反応がなく、なだめようとするとかえって興奮することがあります。親が声をかけても反応がない場合は、夜驚症である可能性が考えられるでしょう。
また、夜泣きの有無には個人差がありますが、生後半年〜1歳半までに起こるケースが多く、症状があらわれる年齢にも夜驚症とは違いがあります。
夜驚症とほかの病気との違い
夜驚症のような症状があらわれる場合、なかには何かしらの病気が関係している可能性もあります。夜驚症と似た症状があらわれる病気として挙げられるのは、以下の2つです。
- てんかん
- 悪夢障害
てんかんの中でも前頭葉てんかんの睡眠中にバタバタする行動は、夜驚症に似ているところもある症状です。
しかし、夜驚症は深い眠りの時に起こる症状である一方、てんかんは夜間に何度も起こることがある点が異なります。
また、「悪夢障害」とは、不快な夢を見ることで恐怖や不安を感じ、眠りが阻害されて日常生活に支障をきたす病気です。絶叫などの症状はあまりなく、起きた後も見た嫌な夢を細かく覚えているという点が、夜驚症とは異なります。
いずれにせよ、病気の場合には専門医の指示のもと、適切な治療を受けることが必要です。病気の可能性を疑う場合には、医療機関を受診してアドバイスを仰ぎましょう。
夜驚症で考えられる原因
夜驚症はまだすべてが解明されているわけではないため、原因は一概にはいえず人によって異なります。
それを踏まえたうえで、ここでは考えられる原因を3つ解説します。参考としてご覧ください。
- 睡眠機能が未発達
- 日中の恐怖体験
- 精神的な不安やストレス
それぞれの原因について、詳しく解説します。
睡眠機能が未発達
子どもは発達過程にあり、いわば「成長中」の状態です。そのため、脳の睡眠機能も発達しておらず、きちんと覚醒できないことから夜驚症が起こると考えられています。
この場合は、成長とともに症状が落ち着く傾向があるようです。
日中の恐怖体験
日中、精神的に刺激がある怖いことや、興奮する出来事を体験すると、夜驚症の症状が起こりやすいとされています。具体的な例を挙げると、以下のような体験です。
- 怖いアニメ
- 事故
- 遊園地のアトラクション
- ゲーム
このような日中の恐怖体験が 明らかに夜驚症の引き金になっている場合は、日中に精神を興奮させる行動は避けることが望ましいでしょう。
睡眠不足やストレス
睡眠不足や心身にストレスを受けている状態が続くと、夜驚症の原因になるのではないかともいわれています。
これは、睡眠不足やストレスにより「交感神経」が刺激され、交感神経が優位になることで脳や体が興奮すると、睡眠の構造が変化したり睡眠リズムが乱れてしまうというメカニズムです。
また、ここで挙げた3つ以外にも、夜驚症が起こる原因は人それぞれであり、遺伝や薬の影響なども考えられるとされています。
渥美正彦
医療法人上島医院院長
夜驚症は幼児ではそれほど病的な現象ではなく、あまり心配しすぎる必要はありません。
ただし、ここに挙げた原因以外に睡眠時無呼吸症候群や喘息、胃食道逆流症など睡眠の病気や、体の病気から起きることもあるので、小学校高学年になっても改善しなければ一度睡眠専門医を受診してください。
大人も夜驚症になることはある?
夜驚症はほとんどが子どもの頃に発症しますが、人によっては、大人になってから発症する場合もあります。子どもの頃に発症したものの、症状が改善しないというケースもあるようです。
大人が夜驚症になる原因も不明ですが、ストレスや睡眠不足が関係するのではないかとされています。
症状がひどいと怪我をする、周りに危害を加えてしまうなど弊害が出てしまうため、注意しなくてはなりません。心配な症状が現れている場合は、速やかに医療機関を受診してください。
渥美正彦
医療法人上島医院院長
大人になって夜驚症を発症した場合は、まずは原因になるような薬やお酒の影響と、睡眠不足や睡眠時無呼吸症候群などが関係していないかを確認することが重要で、原因が特定できればその治療が優先です。
睡眠中の安全を確保するためのアドバイスを行い、必要に応じて薬を使うこともあります。
夜驚症への対処法
つづいて、夜驚症への対処法を解説します。人によって症状や原因は異なることは前提ですが、どのように対処すれば良いのか検討もつかず悩んでいる方は、参考にしてください。
- 子どもの場合は優しく冷静に見守る
- ストレスを溜めない
- 医療機関を受診する
それぞれの対処法について、詳しく解説します。
子どもの場合は優しく冷静に見守る
子どもが夜驚症の場合には、優しく見守ることが大切です。子どもにあらわれる夜驚症の症状は、年齢を重ねることで自然と解消することが多いとされています。
前述したとおり、症状が出ている時は周りの音に反応を示さないため、声をかけても効果はありません。子どもの周囲に危険なものがないか、階段など危険な場所に行かないよう見守りましょう。
症状が出ている時になだめたり、止めようとしたりすると逆に興奮してしまうこともあるようです。何もせずに見守るのは心苦しいかもしれませんが、周囲の危険に配慮しながら見守るようにしましょう。
ストレスを溜めない
ストレスが原因で夜驚症が起こっている場合は、なぜストレスが溜まるのか、その原因を認識・解消できるよう努めることが重要です。ストレスが強く精神的に不安定な場合は、カウンセリングを受けて専門家に頼るのも良いでしょう。
ストレスを溜めなければ夜驚症には絶対にならないというわけではありませんが、ストレスが溜まると夜驚症だけでなく、日中の生活などにも悪影響が及ぶ可能性があります。心身ともに健康で過ごすためにも、ストレスは上手に解消させるよう努めましょう。
渥美正彦
医療法人上島医院院長
子どものストレスを溜めないために、周囲の大人が心配しすぎないことが最も大切です。夜驚症の子どもは苦しそうに見えますが、実際はほぼ無害な現象であることを知っておきましょう。
子どものストレスは言葉にも、言葉以外にもあらわれます。子どもがいろいろな方法で自分を表現できるように、寝ている間だけでなく起きている間も優しく冷静に見守ってあげてください。
医療機関を受診する
ここまで紹介した対策に取り組むと同時に、「夜驚症なのか病気なのかわからない」「夜驚症によって日常生活に支障が出ている」などの場合には、医療機関を受診して適切な診断を受けましょう。
例えば、子どもやパートナーなど、家族の誰かに夜驚症の症状が出ており、その泣き叫ぶ声などで睡眠不足になり疲弊しているケースなどが考えられます。
また、症状がひどくなっていくように感じる時も、速やかに医療機関へ相談するようにしてください。
受診する科は、心療内科・精神科のほか、睡眠外来や小児科で対応できる場合もあります。どの科を訪れるべきかわからない場合は、まずはかかりつけ医に相談すると良いでしょう。
まとめ
夜驚症になると、泣き叫んだりパニックを起こしたりするため、一見「怖い」と不安に感じるかもしれません。しかし、子どものうちに発症した夜驚症は、多くが自然に消滅します。
ただし、症状が重い場合や、家族など周りに弊害がある場合は、医療機関の受診も検討してみてください。
大人もまれに夜驚症を発症しますが、原因は十分解明されておらず、ストレスや睡眠不足、睡眠時無呼吸症候群などほかの睡眠障害が影響しているのではないかと考えられています。ストレスや睡眠不足は、夜驚症だけでなく、ほかの症状の原因ともなりうるため、意識して改善しましょう。