痔に関する悩みは、人にはなかなか言いづらいうえに医療機関の受診も躊躇しやすく、自分1人で抱えやすいものです。「痛い」「かゆい」など、症状が気になって眠れなくなり、睡眠不足になることもあるかもしれません。
睡眠不足になると集中力の低下や自律神経の乱れを引き起こすことがあり、痔の痛みから悪循環に陥ってしまいます。もし痔の症状がつらいなら、恥ずかしいからと我慢せずに正しい対処が必要です。
この記事では、痔の種類ごとの特徴や痛みで眠れない時の対処法を解説します。痔を防ぐ心がけも紹介するので、ぜひ参考にしてください。
痔の種類は大きく分けて3つ
痔にはさまざまな種類がありますが、代表的なものに以下の3種類があります。
- いぼ痔(痔核)
- きれ痔(裂肛)
- 痔ろう(あな痔)
それぞれ詳しく解説するので、原因や症状から自分がどの種類なのかチェックしてみてください。
いぼ痔(痔核)
「いぼ痔」とは、肛門にいぼのような腫れができる疾患です。排便時の強いいきみや便秘によって肛門に負担がかかり、血流が悪くなって腫れることでいぼ痔になると考えられています。
いぼ痔はできる場所や症状によって2種類に分けられ、肛門の内側にできるのは「内痔核」、肛門の外側にできるのは「外痔核」です。
内痔核の場合、痛みは少ないものの排便時に出血するケースがあり、症状が進むと排便時に肛門からいぼが出てくることがあります。一方の外痔核は、炎症を起こすと血栓ができることがあり、出血は少なめですが痛みが強く出ることが多いタイプです。
きれ痔(裂肛)
「きれ痔」とは、肛門の中の皮膚が裂けて切れた状態の疾患です。便秘による硬い便を無理に排便、または勢いの強い下痢によって皮膚が傷ついて裂けることで発症します。
きれ痔は排便時に強い痛みがあり、症状がひどくなると排便後しばらく痛みが続くことがあります。ただし出血は少なく、トイレットペーパーにつく程度です。
きれ痔になると痛みを避けるため排便を我慢するようになるので、便秘になりやすいところも懸念点です。排便しないことで便が硬くなって再び皮膚が切れ、悪循環に陥ることがあります。切れ痔が長期間継続し慢性化すると、肛門が狭くなり切れやすいおしりになるため手術が必要になります。
痔ろう(あな痔)
「痔ろう」は、直腸と肛門の境目である歯状線(しじょうせん)が膿んで炎症を起こし、管状のものができた状態です。下痢が歯状線のくぼみに入って細菌に感染して膿み、炎症を起こすと痔ろうになります。
膿が排出されるまでは腫れや痛み(激痛)、発熱がありますが、膿が排出されると楽になります。膿が出た後、多くの場合は膿を繰り返すため痔ろうを切除する手術が必要になります。
痔が痛い時に病院に行く目安
痔の症状を自覚した場合、自分の判断で対処法に取り組む前に、まずは医療機関の受診を検討しましょう。
自分では痔だと思っていても、実は体内から出血していたというケースもあり、もしかしたら症状の原因は痔ではなく、内蔵系をはじめとした何らかの疾患の可能性も考えられます。
医療機関を受診する目安となる症状の例は、以下のとおりです。
- 痛みがある
- かゆみがある
- 出血がある
- 肛門からいぼが出ている
- 便秘や下痢を繰り返す
- 肛門を洗うとしみる
痔だと思われる症状を自覚した際には、肛門科を受診することとなります。初めて肛門科を受診する時は不安に感じることもあるでしょう。羞恥心と痛みの恐怖で受診を躊躇する方も多いと思います。
しかし、肛門科の診察で痛い処置を行うことはほぼ無く、通常は丁寧に優しく行われます。羞恥心はなかなか払拭できないかもしれませんが、カーテンやタオルで露出を減らし、病院によってはアロマや音楽などを活用して、リラックスできる工夫をしている施設もあります。
診察時は横向きに寝て、腰にはバスタオルを巻いて診察する方法が基本です。恥ずかしい体勢をとらないよう配慮されているため、過剰に不安に思う必要はないでしょう。
男性医師に診察してもらうことが恥ずかしいと感じる女性は、女性医師がいる病院を選ぶ方法もあります。女性外来の中には肛門を見てくれる病院もあるので、肛門科に抵抗を感じる方は探してみてください。
また、症状が痔なのかほかの病気なのかわからない場合は、まずはかかりつけ医に相談しても良いでしょう。
白畑敦
しらはた胃腸肛門クリニック横浜 院長
疼痛が強い場合(腫れ、膿が出る、大きく脱出する場合)、出血が高度の場合は速やかに受診したほうが良いです。また最近では多くの肛門科医療機関はプライバシーに配慮し疼痛や苦痛を軽減する工夫が多くなされているため安心して受診して下さい。
種類別!痔が痛くて眠れない時の対処法
医療機関を受診して医師による診断・治療を行うのに加えて、痔の症状がつらいなら、自分でできる対策にも取り組みましょう。
痔の種類に関わらず、痔が痛い場合はまず安静にすることが大切です。それを踏まえたうえで、以下で解説する対処法に取り組んでみてください。
ここからは、以下の3種類の対処法をそれぞれ解説します。
- いぼ痔(痔核)
- きれ痔(裂肛)
- 痔ろう(あな痔)
同じ痔といってもそれぞれ対処法が異なるので、自分の痔の種類に合った方法を試してみてください。
なお、ここで紹介する対処法はあくまでも一般的な方法となるため、必要に応じて医師にアドバイスを受けながら自分に適する対処法に取り組むことをおすすめします。
いぼ痔(痔核)の対処法
いぼ痔の場合は、おしりを温めて血行を促すと痛みが和らぎやすいです。
お風呂をシャワーで簡単に済ませるのではなく、入浴または座浴をしておしり全体を温めましょう。もし痛みが強くて入浴が難しい場合は、ホットタオルやカイロで患部を温めることをおすすめします。
また、患部に負担がかからないように、同じ姿勢をとり続けないことも大切です。同じ姿勢をとることは血流が滞ることになります。また、肛門括約筋(こうもんかつやくきん)の緊張も疼痛の悪化に影響するため、躊躇せず鎮痛薬を内服しましょう。疼痛に過剰に神経質になり、括約筋の緊張が助長しないようにリラックスできる環境も大切です。
そのほかの注意点として、排便でいきんだ時などに、内側にできたいぼが外に脱出する場合があります。手で触れても痛くない場合は、脱出物を肛門の中にゆっくりと押し戻しましょう。この時、痔核の脱出は無理に戻さなくても大きな影響はないため、無理に押しこもうとしないようにしましょう。
また、外の痔(外痔核)が腫れる場合もありますが、外痔核はそもそも肛門内に戻らず内の痔(内痔核)との区別が必要となり鑑別が困難なケースもあるため、とにかく無理をしないことが大切です。いぼが肛門内に戻らない場合、緊急性はありませんが医療機関を受診しましょう。
いぼの脱出と似た症状として、肛門から直腸が飛び出す「直腸脱(ちょくちょうだつ)」があります。直腸脱は名前のとおり直腸が出る病気で、軟らかい粘膜が肛門の360度同心円状に飛び出る特徴的な見た目のため、1回診た人はすぐわかりますが、自分だけで判断せず、まずは病院を受診することをおすすめします。
直腸脱も緊急性はありませんので、ゆっくり準備して受診しましょう。
きれ痔(裂肛)の対処法
きれ痔もいぼ痔と同様、患部を温めて血行を促すと痛みが緩和されやすくなります。前述したように入浴や座浴をする、もしくはホットタオルなどを使用して温めましょう。
患部に負担がかからないように圧迫しないほか、細菌が入るのを防ぐため、きれ痔を触らないように気を付けてください。
きれ痔は基本的には薬で治りますが、長い経過で慢性的となり、肛門が狭くなったり、肛門ポリープができたり、難治性の潰瘍ができたりした場合には手術が必要になりますので、薬で数週間の治療で改善しない場合は早めに医療機関を受診しましょう。
痔ろう(あな痔)の対処
痔ろうで膿んでいる場合は、まず患部を冷やします。ほか2種類の痔のように温めると、痔ろうの場合は痛みに繋がるため注意しましょう。
また、就寝時には、横向きやうつ伏せの姿勢になると痛みの軽減に繋がりやすいため、寝姿勢にも気を配ることをおすすめします。
もし膿が出ている場合は、患部を洗って清潔にしましょう。痔ろうは市販薬では治療できず、手術する必要があるため、できるだけ早く医療機関を受診することが望ましいです。
白畑敦
しらはた胃腸肛門クリニック横浜 院長
上記3種類の痔に関して、すべてに共通する対処法の一つとして排便コントロールが重要になります。便秘もダメですが下痢にも注意が必要で、どちらも肛門にダメージを与えます。バナナやソフトクリームのような理想的な便と肛門の清潔環境の保持を心がけましょう。
また、トイレの時間を最小限にする(トイレでのスマホの使用、新聞や雑誌を読む、たばこを吸うなどの禁止)もとても大切です。
痔の症状が軽いなら市販薬の使用も検討を
痔の市販薬には、患部に直接使用するタイプの「外用薬」と、飲むタイプの「内服薬」の2種類があります。
痔の市販の外用薬には、鎮痛剤や腫れを抑えるステロイド含有の薬が多くとても優れているため、市販薬による治療をまず行うことは間違いではありません。主にいぼ痔(痔核)・きれ痔(裂肛)の炎症を和らげるのに使用し、内服薬は体の内部から炎症を和らげるのに使用します。
内服薬の特徴として、外用薬に比べると効果はゆっくりとあらわれる点があります。前述のとおり、痔ろう(あな痔)は市販薬では治療できないので注意が必要です。
いぼ痔(痔核)・きれ痔(裂肛)の方は市販薬を使用できますが、しばらく使用しても症状が良くならない場合は病院を受診しましょう。
痔を予防する5つの方法
痔は日常生活の過ごし方を意識すれば、予防しやすい病気です。普段痔になることが多い方は、以下の5つの方法を試してみてください。
- 排便時にいきみすぎない
- ウォシュレットの使いすぎに注意する
- 下痢・便秘を防ぐ食生活を送る
- 立ちっぱなし・座りっぱなしの時間を減らす
- 入浴や運動で血行を促進する
それぞれ詳しく解説します。
排便時にいきみすぎない
排便時にいきみすぎると肛門に負担がかかり、うっ血して痔に繋がりやすくなります。人間の平均の排便時間は50~60秒です。さまざまな事情を考慮し、目安としてトイレにいる時間は3分程度にして、なるべく肛門に負担をかけないように気を付けましょう。
排便できない時は無理せずに、自然に便意をもよおした時に排便すると痔の予防になります。
ウォシュレットの使いすぎに注意する
肛門に細菌が繁殖するのを防ぐために、排便後は肛門を清潔にしましょう。排便後にウォシュレットで洗うのは効果的ですが、洗い過ぎ・強すぎる水圧・熱いお湯・乾燥機能の使いすぎは避けてください。
肛門は粘液で保護されているため、「ペトぺトしたおしり」が理想です。洗いすぎによってドライになると、さまざまな有害なことが生じます。
肛門を清潔にするには、湯温が人肌程度のお湯で10秒程度洗えば十分です。洗浄後、水分をしっかり拭き取らないと細菌が繁殖しやすくなるため注意しましょう。
下痢・便秘を防ぐ食生活を送る
前述のとおり、下痢や便秘が痔の原因となることが多いため、普段から食生活に気を付けて下痢や便秘を防ぐことが大切です。
便を軟らかくするために、1日1リットルを目安に水分を摂りましょう。朝起きたら、まず冷たい水を飲む習慣をつけると、排便が促されやすくなります。
また、腸内環境を整えるため食生活に気を配り、食物繊維を積極的に摂取しましょう。食物繊維は、野菜ならごぼう・キャベツ・にんじん、果物ならりんご・バナナ、きのこ類ならえのき・しいたけに多く含まれています。
さらに、腸内の善玉菌を増やすために、ヨーグルト・みそ・醤油・納豆から乳酸菌を摂るのもおすすめです。
一方、痔の時に悪玉菌を増やす食べ物を摂取するのは、あまりおすすめできません。具体的には、インスタント食品・アルコール・辛い物・冷たすぎる食べ物は控えたほうが良いでしょう。
睡眠と便秘の関係性や睡眠の質を高める方法、便秘の予防や解消に繋がる行動について詳しく知りたい方は、下記の記事もご覧ください。
立ちっぱなし・座りっぱなしの時間を減らす
肛門にかかる負担をできるだけ軽減するため、同じ姿勢を続けないように努めましょう。
座りっぱなしはもちろん、立ちっぱなしでも肛門に負担がかかります。長時間同じ姿勢が続く時は、合間に姿勢を変えたりストレッチをしたり、体を動かして血液を循環させましょう。
もしデスクワークの仕事で長時間座る場合は、円座クッションの使用がおすすめです。真ん中に穴が空いた構造から椅子に肛門が当たらないため、かかる負担を減らせるメリットがあります。
また、座りっぱなしで体が冷えると血行が悪くなるので、必要に応じて膝掛けやカイロを活用しましょう。
入浴や運動で血行を促進する
体の血行を促すには、入浴や運動が効果的です。おしりは意外と冷えやすいため、ぬるめのお風呂にゆっくり浸かって温めましょう。暑い夏場でもエアコンで体が冷えるので、シャワーではなく湯船に浸かることをおすすめします。
また、ウォーキングやヨガなど軽い運動を毎日行い、全身の血液の循環を促すことも大切です。無理なくできる範囲で良いので、適度な運動を習慣にしましょう。運動すると腸の活性化に繋がるほか、筋力がアップすれば便を押し出す力もつけられます。
上記に十分配慮し、痔の予防に努めることを勧めますが、痔はさまざまな要因により発生するためその都度バランスよく対応しましょう。また、年齢や体質的な要因も大きく影響するため、あまり自力で頑張りすぎず困った時は医療機関を受診しましょう。
白畑敦
しらはた胃腸肛門クリニック横浜 院長
痔の予防はお風呂でよく温める、トイレの時間を最小限にする(トイレでのスマホの使用、新聞や雑誌を読む、たばこを吸うなどの禁止)、ウオッシュレットの過剰使用の中止、便秘予防が大切です。
まとめ
痔の代表的なものには、いぼ痔・きれ痔・痔ろうの3種類があり、それぞれ症状や原因は異なります。
普段から痔になることが多い方は、痔の原因に多い下痢・便秘・血行不良にならないように気を付けましょう。もし痔が痛くて眠れないなら、紹介した対処法を試してみてください。
肛門科の受診は不安かもしれませんが、診察では配慮してもらえるため、ほかの科を受診する時と同じ感覚で受診できます。痔の治療を先延ばしにすることは望ましくないため、痔の症状を自覚したらまずは医療機関の受診を検討しましょう。