ヨガでは呼吸によって体と心のバランスを整える効果があると考えられています。正しい呼吸法を繰り返すことで自律神経と代謝は改善されます。
そのため、ヨガの呼吸法はストレス解消や睡眠の質を高める方法として注目を集めています。片鼻呼吸はヨガの呼吸方法の一つで、手軽に始められるため、慣れていない方にもおすすめです。
この記事では片鼻呼吸のやり方や、睡眠との関係などをわかりやすく解説します。片鼻呼吸に興味がある方は、ぜひ参考にしてください。
片鼻呼吸とは?
片鼻呼吸とは、片方の鼻を塞ぎながら行う呼吸法のことです。
指で片方の鼻孔(鼻の穴)を塞ぎつつ、もう片方の鼻で息を吸い、塞いでいた反対の鼻から息を吐きだすため、片鼻呼吸と呼びます。意図的に呼吸を調整して、自律神経を整えリラックスした状態を得ることが目的です。
左右の鼻を片方ずつ用いて呼吸をすることで、交感神経の活性と抑制に働きかけることができるといわれています。そのため、片鼻呼吸を行えば、自律神経を整えられる可能性が高いです。
なお、自律神経は、呼吸や体温調節などの私たちの体にとって必要な機能を自動(自律的に)で休みなく行っている神経メカニズムです。
「体を緊張させる」交感神経と、「体を弛緩させる」副交感神経から成り立ち、その2つの神経が上手にバランスを保つことが健康な状態であるといえます。
片鼻呼吸で得られるそのほかの効果
片鼻呼吸を行うと自律神経を整える効果のほかに、次のような効果も期待できます。
- 頭がすっきりする
- 顔色が良くなる
- ストレス解消
- 集中力アップ
片鼻呼吸を繰り返すことで副交感神経が優位になると、脳血管を拡張させます。そのため、首から上の血行が促進され、頭がすっきりし、顔色が良くなるなどの効果を得ることが可能です。
また、自律神経を整えることができれば、ストレスを解消でき、集中力アップなどの効果も得られます。
顔色が悪い、ストレスが溜まっているなどの不調を感じている方は、片鼻呼吸を試してみましょう。
片鼻呼吸と睡眠の関係
副交感神経が優位になると心身がリラックスするため眠気が生じやすくなります。
一方で、交感神経が優位なままだとリラックスできず、体が睡眠モードにならない、あるいは途中で起きてしまうため睡眠の質が下がります。
片鼻呼吸で自律神経を整えれば、交感神経の働きを抑制でき、副交感神経が優位になるため眠りやすくなり、睡眠の質の向上に繋がります。
瀬尾達
瀬尾クリニック院長
最近の研究で、鼻の粘膜で一酸化窒素が作られることがわかり、鼻呼吸をすれば、体内に一酸化窒素を取りこめることがわかってきました。さらに片側の鼻だけで呼吸をすればより効果的に一酸化窒素を体内に取り込むことができます。
片鼻呼吸法で呼吸することで、鼻粘膜で作られた一酸化窒素が一度鼻腔内にたまり、濃度の高い一酸化窒素が体内に取り込めるようになり、一酸化窒素には血小板が固まり血栓ができるのを防ぐ働きや、カテコールアミンなど血管を収縮させるホルモンの働きを抑える働きがあるので、長期的には動脈硬化の進行を遅らせることができます。
片鼻呼吸のやり方
片鼻呼吸は朝起きてすぐに始めたり、ベッドに入る前に行ったりしても効果を得られます。仕事や家事などの隙間時間でも行えるので、気軽に始めてみましょう。
片鼻呼吸のやり方は以下のとおりです。
- 椅子に浅く腰掛けるか、床に楽に座る
- 背筋を軽く伸ばす
- 大きく深呼吸をする
- 指で右鼻孔(鼻の穴)を塞ぐ
- 左鼻孔から息を吸って止める
- 指で左鼻孔を塞ぐ
- 右鼻孔を開けて息を吐きだす
- 右鼻孔で息を吸って止める
- 指で右鼻孔を塞ぐ
- 左鼻孔を開けて息を吐きだす
4~10までで1セットを、合計10セットほど繰り返します。ヨガの正式な実践法では細かく秒数を決めて呼吸を行いますが、慣れていない方だと難しく感じてしまうので、自分に合った方法で行いましょう。
片鼻呼吸のポイントは、片方の鼻で息を吸い止めてから、もう片方の鼻で吐き出すことです。最初は呼吸の回数を少なくして、慣れてきたら徐々に増やしていくと良いでしょう。
片鼻呼吸を避けたほうが良い場合
片鼻呼吸は意図的に呼吸を調整するため、健康状態によっては避けたほうが良い場合があります。
次の場合に該当する方は、片鼻呼吸を行うのは止めておきましょう。
- 健康状態に不安がある場合
- 左右どちらかの鼻のとおりが悪い場合
- 食後の場合
上記の、片鼻呼吸を避けたほうが良い場合を順番に解説します。
健康状態に不安がある場合
人間は呼吸をすると横隔膜が動くため、胸やお腹に圧力がかかります。そのため、片鼻呼吸は胸やお腹に圧力をかけることが良くないと考えられる、次のような健康状態の方にはおすすめできません。
- 高血圧の方
- 心疾患の方
- 脳卒中を経験している方
- てんかんの経験がある方
- 生理や妊娠中の女性など
上記に当てはまる方や、医者から胸やお腹に圧力をかけないように注意されている方は、片鼻呼吸は避けましょう。
左右どちらかの鼻のとおりが悪い場合
自然な鼻呼吸ができない状態を鼻呼吸障害、あるいは鼻閉や鼻詰まりと呼びます。鼻閉の主な原因は呼吸の流れを邪魔する、次のような物理的な障害物です。
- 鼻腔骨格の形態異常
- 鼻腔粘膜の肥厚や腫脹
- ポリープや腫瘍など
上記が原因で、片方の鼻のとおりが悪いと自然な鼻呼吸ができません。そのため、自然な鼻呼吸ができない方は、物理的に片鼻呼吸はおすすめできないでしょう。
瀬尾達
瀬尾クリニック院長
鼻のとおりが悪いことのリスクとしては、幼児の場合、無呼吸発作によるチアノーゼ、夜尿症や夜驚症があり、児童では、浅い睡眠による日中の活動性低下や学校での集中力の低下、成人では、睡眠の質の低下による睡眠時無呼吸症や全身倦怠、場合により、性的不能症や精力減退なども考えられます。
食後の場合
食後すぐに片鼻呼吸を行うことは避けましょう。
食べ物は食道を通って胃に送り込まれると、消化のために胃が膨らみます。片鼻呼吸を行うと、胃で膨らんだ下腹部に影響を与える可能性があるので、食後すぐに行うのはおすすめできません。
胃に入った食べものは平均2〜3時間程度で消化されます。そのため、片鼻呼吸は食後すぐに行わず、入浴中や睡眠直前などリラックスできる時間帯に行うと良いでしょう。
片鼻呼吸以外でリラックス効果を得られる呼吸方法
片鼻呼吸以外にも、リラックス効果を得られて、副交感神経を優位にする次のような呼吸方法があります。
- 腹式呼吸
- 丹田呼吸法
- ブラーマリー呼吸
ただし、呼吸法によっては腹部に圧力をかけるため、片鼻呼吸と同様に健康状態に不安がある方は止めておきましょう。
片鼻呼吸以外で、リラックス効果や副交感神経を優位にさせる呼吸方法を順番に解説します。
腹式呼吸のやり方
腹式呼吸とは、鼻から息を吸ってお腹を膨らませ、吐く時にへこませる呼吸方法です。ヨガの基本的な呼吸方法で、横隔膜が下がって内臓を刺激するほかに、深い呼吸によって副交感神経が優位になります。
腹式呼吸のやり方は以下のとおりです。
- 足を肩幅に開いて立つ
- 背筋を伸ばして肩の力を抜く
- 鼻からゆっくりと長く息を吐く
- 吐きながらお腹をへこませる
- 息を吐ききったら鼻からゆっくりと息を吸う
- 吸いながらお腹を膨らませる
3~6までの1セットを5回繰り返しましょう。腹式呼吸のポイントは、肩の力を抜くことと、呼吸とお腹の動きが連動していることです。
特に、肩に力が入ってしまうと胸式呼吸となり、交感神経を刺激して優位に働くように促してしまいます。交感神経が優位になると緊張状態が高まるので、リラックス効果を得られません。
肩に力が入ってしまう方は椅子に座ったり、仰向けの状態で行ったりすると、リラックスした状態で呼吸を繰り返せます。
腹式呼吸にはリラックス効果やお腹を引き締める効果を期待できるので、気になる方は試しましょう。
丹田呼吸法
丹田呼吸法は腹式呼吸の一つで、深い呼吸により酸素の量を増やして血流を良くし、副交感神経の働きを促進させます。また、丹田呼吸法を行うことで、ストレスをコントロールする脳内物質の「セロトニン」の分泌量が増えるため、ストレスをコントロールする効果も期待できます。
丹田呼吸法のやり方は以下のとおりです。
- 椅子に座り背筋を伸ばす
- へその下に手を当てる
- 口から息をゆっくりと吐きながら、へその下をへこませる
- 鼻から息をゆっくりと吸いながら、へその下を自然に膨らませる
丹田呼吸法のポイントはゆっくりと呼吸を繰り返すことです。そのため、3~4までの1セットを1分間に3~4回繰り返しましょう。
慣れてきたら呼吸を繰り返す時間を増やしていき、口からではなく鼻から息をゆっくりと吐くようにすれば、自律神経が整いやすくなります。
ブラーマリー呼吸
ブラーマリー呼吸はヨガの呼吸法の一つで、鼻から出る音を頭蓋骨で響かせることで、自律神経を整える働きがあると考えられています。
ブラーマリー呼吸のやり方は以下のとおりです。
- 床にあぐらをかいて座る
- 口ではなく、鼻で呼吸をする
- 目を閉じる
- 親指以外の指で左右の瞼を軽く覆う
- 親指は軽く耳の穴を抑える
- 鼻から息を吐ききる
- 鼻から息を吸い込む
- 鼻から息を吐きながら、「ンーーー」と鼻から声が抜けるようにハミングする
ブラーマリー呼吸のポイントはリラックスした状態で行うことです。そのため、口を閉じる際は上下の歯を少し開けておき、こめかみに力を入れず、ハミングする際はご自分にとって心地良い声量や音程で行います。
上記の7~8を3回ほど繰り返したら、両手を降ろして鼻呼吸から普通の呼吸に戻しましょう。
ブラーマリー呼吸は頭の疲れやストレス、不眠などが気になる人におすすめの呼吸法です。また、瞑想状態に入りやすくなる呼吸法とされているため、ヨガでポーズをとる前のウォーミングアップとして役立ちます。
まとめ
片鼻呼吸は自律神経を整える効果を期待できるので、睡眠の質の向上に繋がります。また、頭がすっきりする、顔色が良くなる、ストレス解消、集中力アップなどの効果を得ることも可能です。
ただし、「健康状態に不安がある場合」「左右どちらかの鼻のとおりが悪い場合」「食後の場合」は避けたほうが良いので注意しましょう。
最初は慣れないかもしれませんが、ちょっとした空き時間に手軽に始められるので、自律神経を整え、睡眠の質を改善させたい方は試してください。