咳はさまざまなタイミングで生じる現象ですが、特に厄介なのが夜間の咳です。就寝のタイミングで咳が出てしまい、眠れずに悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、夜寝る時に咳が出る原因や対策方法を詳しく紹介します。咳が原因で眠れていない方は、ぜひ参考にしてください。
夜寝る時に咳が出る原因
夜寝る時に咳が出てしまうのは、主に下記のいずれかに原因があります。
- 副交感神経が優位になる
- 気温の低下や空気の乾燥
- 寝具にダニや埃が付着している
- 睡眠中の口呼吸
- 薬の副作用
- 咳が出る疾患に罹患している
以下で具体的な原因を順番に見ていきましょう。
副交感神経が優位になる
人の体の状態は、主に自律神経によってコントロールされています。自律神経は交感神経と副交感神経の2つから成る神経です。
2つの神経は1日をとおして切り替わっており、日中は交感神経が優位になることで心身が活動しやすい状態になります。
夜になると優位になる神経が交感神経から副交感神経に切り替わり、心身を休みやすい状態に導いてくれるのですが、この時に体の緊張が緩むことで気管支が狭くなるため、夜は日中に比べると咳が出やすくなります。
気温の低下や空気の乾燥
夜に咳が出る原因としては、気温の低下や空気の乾燥も考えられます。気温が低下したり、空気が乾燥したりすると気管支の粘膜が刺激されてしまい、咳に繋がる場合があるといわれています。
特に秋〜冬の季節は気温が低いほか、空気も乾燥しやすい時期です。気温や乾燥の影響で咳が出やすいので気をつけてください。
寝具にダニや埃が付着している
ベッドに入るタイミングで咳が出る場合は、寝具に付着したダニや埃などのアレルギー物質が原因になっている可能性を考えましょう。アレルギー反応の原因となる物質を吸い込んでしまうと体の免疫機能が過剰に働いてしまい、症状として咳が出る場合があります。
また、ダニや埃のほかには、ペットの毛や花粉もアレルギー反応の原因となり得ます。
佐藤留美
朝倉医師会病院 呼吸器科部長
寝具に潜在するアレルゲンによる咳以外の症状としては、アレルギー性結膜炎(目の充血・目のかゆみ)、気管支喘息(咳、ゼーゼー、ヒューヒューと音がする呼吸、呼吸困難)、アトピー性皮膚炎(かゆみ、湿疹、肌の乾燥などを繰り返す)、アレルギー性鼻炎(くしゃみ、鼻水、鼻詰まり)といった症状が起こりえます。
睡眠中の口呼吸
寝ている間に口呼吸をしていると喉が乾燥してしまい、咳に繋がる場合があるので注意してください。普段から鼻呼吸をするように気をつけていても、鼻づまりなどの症状があると人は無意識のうちに口呼吸をしてしまうことがあります。
口呼吸を防ぐには、鼻炎など鼻呼吸に影響する症状を早めに改善することが重要です。鼻呼吸ができる状態であるにもかかわらず口呼吸になってしまう場合は、就寝前に口呼吸を防ぐためのテープを口に貼るなどして対策をすると良いでしょう。
薬の副作用
薬の種類によっては、副作用として咳が出る場合があります。 薬の副作用については、処方時に医師や薬剤師から説明を受けるはずですが、就寝が困難になるなど苦痛を伴う場合には担当医に相談しましょう。
咳が出る病気に罹患している
寝る時の咳がひどい場合は、症状として咳が出る病気にかかっている可能性も考えましょう。咳が出る病気はさまざまありますが、例としては主に下記が挙げられます。
- アレルギー性鼻炎
- 副鼻腔炎
- 気管支喘息
- 肺炎
- 気管支炎 など
咳が出る期間が長引く場合は、一度医療機関に相談することをおすすめします。
夜に寝ると咳が出る場合の対処法
夜に寝るタイミングで咳が出る場合は、下記の方法で対処をすると良いでしょう。
- 寝室の温度や湿度を整える
- 首周りを温める
- 横向きの姿勢で寝る
- 水分やハチミツを摂取する
これらの方法は比較的簡単に実践できるため、手軽に対処をしたい方には特におすすめです。以下で具体的な方法を解説するので、参考にしてください。
寝室の温度や湿度を整える
咳の原因が温度の低下や空気の乾燥にある場合は、寝室の温度・湿度を調整しましょう。急な温度の変化や空気の乾燥を防ぐことで、咳の原因を取り除けます。
一般的には、夏場は25℃〜26℃、冬場は22℃〜23℃の温度、湿度は通年50%〜60%が理想だといわれています。加湿器や冷暖房を上手に活用し、理想的な就寝環境を整えましょう。
佐藤留美
朝倉医師会病院 呼吸器科部長
空気が乾燥すると鼻や喉、気管の粘膜も乾燥しやすくなり、粘膜に生えているせん毛までも乾燥しやすくなってしまいます。粘膜やせん毛は、外部から侵入してくるウイルスや細菌、ホコリなどの異物を排除する役目があります。そのため、粘膜やせん毛が乾燥すると、異物を排除する動きがにぶくなるので、風邪やインフルエンザにかかりやすくなってしまいます。
他には、空気が乾燥することで皮膚、粘膜が乾燥し、さらには呼吸によって水分が奪われてしまうため、脱水症状を引き起こしてしまいます。
首回りを温める
喉周辺が冷えてしまうと気管支の粘膜が刺激に敏感になり、咳が出やすくなってしまいます。喉に冷えを感じる際は、首にタオルやネックウォーマーを巻く、温かい飲み物を飲むなどして首周りを温めましょう。
横向きの姿勢で寝る
咳がひどくて眠れない夜は、横向きの寝姿勢を保つようにするのがおすすめです。横向きで寝ると気道が広がりやすくなり、咳の改善に期待できます。
横向きのほかには仰向けも代表的な寝姿勢ですが、仰向けで寝る場合は喉に下がってくる痰などが原因で咳が出ることがあるので注意してください。
水分やハチミツを摂取する
咳の原因である空気の乾燥を防ぐには加湿器が有効ですが、環境によっては乾燥を防ぎきれないこともあります。寝室の空気の乾燥が気になる場合は、就寝前に水分を摂取して喉を潤しましょう。
なお、就寝前に飲むのなら温かい飲み物を飲むのがおすすめです。就寝前に温かい飲み物を飲むと眠るタイミングで深部体温が下がることで体が休息状態となり、自然な眠気が訪れてくれます。逆に冷たい飲み物は喉を刺激してしまうので、できるだけ避けましょう。
また、子供の咳に対しては、ハチミツの摂取も効果的です。ハチミツが持つ抗酸化作用や抗菌作用が咳を抑えると考えられています。ただし、1歳未満の子供がハチミツを食べると、乳児ボツリヌス症にかかる可能性があるので注意してください。
佐藤留美
朝倉医師会病院 呼吸器科部長
ボツリヌス菌は、土壌中などに広く存在している細菌です。ボツリヌス菌が食品などを介して口から体内に入ると、大人の腸内では、ボツリヌス菌が他の腸内細菌よりも弱いため、何の症状も起きません。
一方、赤ちゃんの場合は、まだ腸内環境が整っていないため、ボツリヌス菌が腸内で増えて毒素を出すようになります。哺乳の低下、便秘、活気低下、泣き声の変化、首のすわりが悪くなる、といった症状を引き起こすことがあります。ほとんどの場合、適切な治療により治癒しますが、まれに亡くなることもあります。
寝る時に出る咳を予防する方法
眠る時の咳に悩まされている方は咳が出た時に対処するだけでなく、普段から予防することも心がけましょう。夜に出る咳は、主に下記の方法で予防ができます。
- 寝室や寝具を清潔に保つ
- こまめにうがいをする
- 刺激の強い食べ物や飲み物は控える
- 喉を使いすぎないように気をつける
- 喫煙を控える
詳しい予防方法を以下で順番に紹介します。
寝室や寝具を清潔に保つ
咳は埃やダニが原因で出ることがあるため、寝室や寝具は常に清潔に保つようにしましょう。埃やダニをすべて除去するのは難しいかもしれませんが、こまめに掃除機をかけるだけでも咳は予防しやすくなります。
また、衛生面をより重視するなら、洗えるタイプの寝具を使うのも一つの方法です。普段の掃除に加えて定期的な洗濯を心がければ、より高い予防効果に期待できます。
こまめにうがいをする
咳を予防したい方は、1日のなかでこまめにうがいを行うことを心がけましょう。うがいは喉に付着した埃を取り除いてくれる効果があるほか、喉が潤うことで咳の原因である乾燥を防げます。
なお、うがいの際は「うがい薬を使ったほうが体に良さそう」とイメージされやすいですが、うがい薬を使うと害のない菌まで殺菌してしまうので注意してください。うがい薬は、喉が腫れている時や医師の指示があった場合に使うことをおすすめします。
刺激の強い飲み物や食べ物は控える
喉の調子が良くない時は、刺激の強い飲み物や食べ物は控えましょう。炭酸飲料や唐辛子、わさびなど刺激が強いものを口にすると、咳が出やすくなってしまいます。
喉を使いすぎないように気をつける
喉を使いすぎて負担がかかると気道の粘膜が弱ってしまい、咳が出やすくなるので注意してください。
例えば、長時間のおしゃべりやカラオケ、試合の応援などは喉に負担がかかる代表的なシーンです。咳がひどい時は、喉を使いすぎないように気をつけながら過ごしましょう。
喫煙を控える
喫煙者の方で咳がひどい場合は、この機会に禁煙を検討しましょう。
タバコの煙には、ニコチンやタール以外にも数多くの化学物質が含まれています。喫煙をするとこれらの化学物質が喉を刺激し、咳が出やすくなってしまいます。
咳が止まらず眠れない場合は医療機関に相談しよう
普段から予防をしているにもかかわらず咳が止まらない場合は、心身に咳が出る疾患が生じている可能性が考えられます。特に2週間以上咳が続く場合、呼吸器の疾患にかかっている可能性があるので注意が必要です。
心身に生じている疾患に咳の原因がある場合は、そのまま放置していると悪化する可能性も考えられます。咳の原因を正確に突き止めるためにも、咳が止まらない方は早めに医療機関に相談することをおすすめします。
なお、咳の症状を診てほしい時は、内科や呼吸器内科を受診するのが一般的です。
まとめ
空気の乾燥や寝具の埃、薬の副作用など、咳が出る原因はさまざまあります。咳がひどくて眠れていない方は、咳の原因を把握したうえで対策を行いましょう。
また、咳はうがいや禁煙、寝具の掃除などをすると予防しやすくなります。ただし、予防をしても咳が止まらない場合は心身に何かしらの疾患が生じている可能性があるので、少しでも不安がある場合は早めに医療機関で検査をしてもらうと良いでしょう。