睡眠負債は、単なる睡眠不足とは異なるため、「寝だめ」などでは返済できないといわれています。
「毎日体調が優れない」「日中に眠気がある」「気が滅入る」といった肉体面・精神面での症状がある方は、睡眠負債を抱えている可能性があります。
この記事では、睡眠負債がどういう状態であるかについて解説し、睡眠負債によって起こりうる心身へのリスクのほか、返済するための方法について具体的に紹介します。
慢性的な睡眠不足による体調不良で悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
- 睡眠負債とは
- 睡眠負債の症状に当てはまるかチェック
- 睡眠負債による心身への影響や考えられるリスクを紹介
- 疲労回復が得られないなど肉体面の影響
- うつ状態など精神面の影響
- 生活習慣病などの病気にかかるリスク
- 睡眠負債は「寝だめ」で返済できないって本当?
- 睡眠負債を返済しよう!睡眠不足を解消する対処法
- ①朝に日光を浴びて体内時計を調整する
- ②ストレッチや軽めの運動で体をほぐす
- ③健康的な食生活を心がける
- ④寝る3時間前までに夕食を済ませる
- ⑤寝る直前のアルコールやカフェイン摂取を控える
- ⑥寝る直前のスマホやパソコン操作を控える
- ⑦入浴は就寝時間の約90~120分までに済ませる
- ⑧温かい飲み物で体温を上昇させる
- ⑨読書、音楽、アロマなどでリラックスする
- ⑩寝具や寝室などの睡眠環境を改善する
- まとめ
睡眠負債とは
睡眠負債とは「睡眠不足が借金のように毎日わずかずつ積み重なっていくこと」を指し、一時的な睡眠不足ではなく、慢性的な睡眠不足のことを指します。
最適な睡眠時間は、人それぞれの体質や個人差、季節や年齢によっても異なりますが、医学的には7〜9時間が適切とされています。
これは、アメリカ国立睡眠財団(National Sleep Foundation)による26歳から64歳の睡眠推奨時間を根拠にしています。
また、6時間睡眠の状態が2週間続くと、徹夜明け直後レベルのパフォーマンスに低下するともいわれています。
最適な睡眠時間は個人によって異なるものの、慢性的な睡眠不足にならないように心がけましょう。
睡眠負債の症状に当てはまるかチェック
睡眠負債を抱えている人のほとんどは、自覚症状がないといわれているため、自分自身で意識的にチェックすることが大切です。
睡眠負債を抱えているか見極めるために、以下の症状や状態に当てはまるかチェックしてみましょう。
- 睡眠時間4時間の日が1週間以上続いている
- 睡眠時間6時間の日が2週間以上続いている
- 日中に強い眠気を感じることが多い
- 寝ても疲れが取れない
- 寝つきが悪い
- 寝ても途中で目が覚める
- 気分が滅入ることが多い
- 目覚めが悪い
- 体がだるい・やる気がでない
- イライラしやすい
- 体調を崩しやすい
- 太りやすい
上記のような状態や症状が続く場合は、睡眠負債を抱えている可能性があります。
睡眠負債を返済するには「寝だめ」など、睡眠時間を極端に長くとる方法ではなく、睡眠の質を高めるための方法をとることが大切です。
改善のための具体的な方法については記事の後半で紹介しているので、自分が睡眠負債を抱えていると思った方は、ぜひ参考にしてください。
睡眠負債による心身への影響や考えられるリスクを紹介
睡眠負債によって生じる心身への影響やリスクとして、以下のようなものが考えられています。
- 疲労回復が得られないなど肉体面の影響
- うつ状態など精神面の影響
- 生活習慣病などの病気にかかるリスク
それぞれについて、以下で詳しく紹介します。
疲労回復が得られないなど肉体面の影響
睡眠負債を抱えることにより、引き起こされる「肉体的」な体調不良として、主に以下のようなものが挙げられます。
- 疲労感や倦怠感
- 免疫力の低下
- 肥満・糖尿病
- 脳卒中
- 高血圧などの生活習慣病の悪化
睡眠には主に心身の疲労回復効果がありますが、睡眠負債を抱えることにより、疲労回復の効果が低下すると考えられます。
例えば、睡眠負債が溜まった状態が続くと、良質な体を維持する役割がある「成長ホルモン」が減り、代わってストレスホルモンである「副腎皮質ホルモン」が多く分泌されるようになるとされています。
渥美正彦
医療法人上島医院院長
副腎皮質ホルモンは本来敵と戦うためのホルモンであり、血圧と血糖値を上げて戦闘に適した体の状態を作ります。しかし、戦闘に必要のない内臓や免疫機能も低下させてしまい、長く続くと高血圧や糖尿病、胃潰瘍、感染症などの危険性が高まります。
うつ状態など精神面の影響
睡眠負債を抱えることにより、引き起こされる「精神面」への影響として、主に以下のようなものが挙げられます。
- 認知力の低下
- 判断力の低下
- 不安定な感情
- 抑うつ状態
- うつ病
特にうつ病では、感情や意欲、思考、身体のさまざまな面に症状が出るほか、前述の肉体的疲労も重なると仕事のミスなどが増え、感情的にネガティブになるなどの悪循環に繋がります。
睡眠負債が溜まった状態が数年続くと、「セロトニン」や「カテコラミン」など、生命維持に必要な物質が枯渇するようになり、抑うつ状態を引き起こしやすくなるともいわれているため、注意が必要です。
生活習慣病などの病気にかかるリスク
睡眠負債は認知症(アルツハイマー)のリスクを高めるともいわれています。
20人を対象にした研究では、一晩徹夜するだけでほぼ全員にアルツハイマー病の病変部である海馬、海馬傍回、視床で脳内のゴミである「アミロイドβ」の蓄積があったことが示されています。
そのほか、慢性的な睡眠不足の状態にある人は肉体面の影響でも紹介したような、糖尿病や高血圧を含め、心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患といった生活習慣病に罹りやすいことが明らかになっています。
ここまで紹介したような肉体面や精神面の影響と、生活習慣病のリスクを考えても、心当たりのある方は、早めに対処したほうが良いといえるでしょう。
自分が睡眠負債を抱えている状態であると思った方は、後述する改善方法を実践し解消を目指してください。
睡眠負債は「寝だめ」で返済できないって本当?
結論、平日の睡眠不足を休日にまとめて解消しようとする「寝だめ」は、2〜3時間が限度で、それ以降は効果がないとされています。
そのため、睡眠負債は、寝だめによって解消するのではなく、前提として溜めないことが大切です。もし睡眠負債を抱えた場合は、毎日の睡眠によってすぐに返済すると心がけましょう。
また、寝だめは効果が薄いだけではなく、長時間眠ることによって朝起きる時間が遅くなり、太陽の光を浴びられない可能性が高くなります。
太陽の光を浴びないと、光による体内時計の調整が行われないため、生活が夜型化し、夜に入眠することが困難になったり、休日明けの朝に目覚めが悪くなったりすることに繋がるため、注意しましょう。
睡眠負債を返済しよう!睡眠不足を解消する対処法
睡眠負債を解消するコツは、前述のとおり、毎日の睡眠時間を少し伸ばして返済していくことです。
前述のとおり、寝だめによる睡眠負債の返済は難しいため「毎日少しずつの返済」が現実的で、今より少し長めの睡眠時間にし、平日も休日も同じ睡眠時間にキープすることを意識しましょう。
習慣により、同じ時間に眠れない方は、下記のような方法と日常に取り入れ、快適な入眠や睡眠の質の改善を目指してください。
- 朝に日光を浴びて体内時計を調整する
- ストレッチや軽めの運動で体をほぐす
- 健康的な食事を心がける
- 寝る3時間前までに夕食を済ませる
- 寝る直前のアルコールやカフェインを控える
- 寝る直前のスマホやパソコン操作を控える
- 入浴は就寝時間の約90〜120分までに済ませる
- 温かい飲み物で体温を上昇させる
- 読書、音楽、アロマなどでリラックスする
- 寝具や寝室などの睡眠環境を改善する
それぞれ、以下で詳しく解説します。
①朝に日光を浴びて体内時計を調整する
人体の体温やホルモン分泌は24時間10分の周期で、地球の周期である24時間とは10分程度のズレがあります。
日光には体内時計のズレを調整する効果がありますが、光を浴びない生活をしていると徐々体内時計がズレていき、昼夜逆転の生活になる可能性が高いとされています。
そのため、朝起きたら日光を浴び、体内時計をリセットする習慣をつけましょう。
人は体内時計のリズムがリセットされてから15~16時間後に眠気が出現することがわかっているため、朝起きて日光を浴びると、夜に自然な眠気が誘発され、夜型の体質になることを防止できます。
このように日光は体内時計を整え、自然な睡眠リズムを作る効果があるため有効に活用しましょう。
②ストレッチや軽めの運動で体をほぐす
適度なストレッチや運動などで体を動かすことは、血行促進に繋がり体の筋肉をほぐす効果があります。
心身のリラックス効果によって副交感神経優位の状態になることで睡眠の質も高めるほか、適度な疲労感は自然で快適な入眠に繋がるでしょう。
また、人は体温が上昇し、下がり始めるタイミングで眠気を感じるため、就寝3時間前ほどに運動することは自然な入眠に繋がります。
ただし、寝る前の激しいストレッチや運動は体を興奮させ寝つきを悪くさせるため、体を動かす時は軽めに抑えましょう。
渥美正彦
医療法人上島医院院長
睡眠の質を改善するための運動に「絶対」はありません。ウォーキングのような有酸素運動でもストレッチでも筋トレでも効果が期待できるので、ご自身に合うものを無理のない範囲で取り入れてください。
③健康的な食生活を心がける
睡眠も生活習慣の一部のため、食生活が乱れると生活習慣が乱れ、結果的に睡眠リズムを崩す原因となることがあります。
また、朝食抜きなどにより体内時計が乱れたり、エネルギー不足で日中の活動が低下することも、夜の睡眠に影響するため、朝・昼・晩は決まった時間に食事を摂りましょう。
規則正しい食生活は体内時計を整える役割があるため、睡眠リズムを整えることに繋がります。
④寝る3時間前までに夕食を済ませる
寝る直前に食事を摂ると、睡眠中に体は消化を優先するため、睡眠の質が低下することに繋がります。
睡眠の質が低下すると疲労回復の効果が薄れ、寝起きの倦怠感などの原因になるため注意しましょう。
消化は食事後3時間で行われるとされているため、夕食は就寝の3時間前までに済ませておきましょう。また、夕食はなるべく消化の良いものを食べるとなお良いでしょう。
⑤寝る直前のアルコールやカフェイン摂取を控える
カフェインには覚醒作用があるため、寝る直前に摂取すると寝つきの悪さや睡眠の質の低下に繋がる恐れがあります。
カフェインを含む代表的な飲み物としては、以下のようなものが挙げられます。
- コーヒー
- ココア
- 紅茶
- 緑茶
- 栄養ドリンク
- エナジードリンク
これらの飲み物は、一般的な人は就寝の3〜4時間前、敏感な人は就寝の5〜6時間前から控えることをおすすめします。
また、アルコールはリラックス効果によって眠気を促すため「寝酒」として用いる方もいると思いますが、アルコールは睡眠の質を下げる原因となるため多用することは控えましょう。
アルコールは睡眠の後半に覚醒度が上がることがわかっています。利尿作用もあるため、夜中にトイレに起きてそこから眠れなくなったり、睡眠の質そのものを低下させたりする原因になります。
習慣化すると少量のアルコールでは寝付けなくなり、量が増えてアルコール依存症や生活習慣病に繋がるリスクもあるためおすすめしません。
⑥寝る直前のスマホやパソコン操作を控える
スマホやパソコンなどの電子機器の画面は、可視光線の中でも体内時計への影響が最も強い光とされているブルーライトを発するため、就寝前に操作すると脳が「今は昼だ」と錯覚し、寝つきの悪さや睡眠の質の低下に繋がります。
これは、眠気を促す「メラトニン」という体内物質の分泌が、強い光によって妨げられることが原因といわれています。
メールやゲーム、SNSなどが夜ふかしの原因になり、睡眠リズムが狂うことによって睡眠負債に繋がる可能性もあるため、寝る前のスマホやパソコン操作は控えましょう。
渥美正彦
医療法人上島医院院長
メラトニンは朝に強い光を浴びることで分泌が抑えられ、その13~14時間に再び分泌されるので、起きたらなるべく早く屋外で光を浴びることが重要です。
逆に夕方以降は比較的弱い光でもメラトニンが抑制されるので、夜は暗めの環境を作ることを意識しましょう。
⑦入浴は就寝時間の約90~120分までに済ませる
前述していますが、人は体温が上昇し、低下し始めるタイミングで眠気が起こります。そのため、入浴も自然な眠気を誘発するために有効活用できます。
就寝時間の約90~120分前に入浴することで就寝時に自然な眠気がきて心地良く入眠できる可能性が高まるうえ、入浴にはリラックス効果もあるためおすすめです。
ただし、熱すぎるお湯は体を興奮させ、寝つきの悪さの原因となるため、ぬるめのお湯での入浴を心がけましょう。
38度のぬるめのお湯で25-30分、42度の熱めのお湯なら5分程度が効果的な入浴としておすすめです。
⑧温かい飲み物で体温を上昇させる
温かい飲み物も体温上昇からの低下による自然な眠気を誘発し、心地良い入眠に繋がります。
おすすめの飲み物は下記のようなものがあります。
- ハーブティー
- ホットミルク
- お湯
- 生姜湯
一方で、温かい飲み物のなかでも、緑茶やコーヒー、ココアなどといったカフェインを含む飲み物は、覚醒作用による睡眠の質を低下させる恐れがあるため、控えましょう。
⑨読書、音楽、アロマなどでリラックスする
人は夜になると体がリラックスし、睡眠中の状態である副交感神経優位の状態に近づいていきます。
自分がリラックスできる方法を取り入れ、副交感神経優位の状態を妨げず、快適な入眠と質の高い睡眠につなげましょう。
リラックスする方法は人によって異なりますが、一般的におすすめの方法としては以下のようなものがあります。
- 読書
- ヒーリングミュージック
- アロマ・お香
- マッサージ
- ストレッチ
- 入浴
前述したとおり、アルコールにもリラックス効果がありますが、アルコールは睡眠の質を低下させるため、睡眠を妨げないことを前提としたリラックス方法を取り入れることを心がけましょう。
⑩寝具や寝室などの睡眠環境を改善する
快適な入眠や質の高い睡眠をとるためには、寝具や寝室の環境の改善も重要です。
寝室の環境や個人差や季節によっても異なりますが、温度は夏場が25℃~26℃、冬場が22℃~23℃、湿度は通年50%~60%が理想的とされています。
そのほかにも、照明の具合や周辺の音にも気を配り、ぐっすりと眠れる環境作りを意識しましょう。
また、生活習慣や寝室環境に問題がなくても、マットレスや布団が体に合っていない場合、寝つきの悪さや睡眠の質が低下する原因になるため、注意が必要です。
快適な睡眠には「体圧分散性」に優れていて、「適度な反発力」があるマットレスを選びましょう。
体圧分散とは、寝ている時に体にかかる圧力(体重による負荷)を分散させることを意味し、睡眠中の体への負担を軽減するために大切な要素です。
硬すぎるマットレスでは、肩や腰といった体の一部で体を支えることになり、負担が集中しやすく寝起きの体調不良のほか、睡眠の質を低下させる原因となります。
一方、柔らかすぎるマットレスも、体が沈み込み寝返りが打ちづらくなるため、おすすめできません。
寝返りには、睡眠中に体の一部が圧迫されることによって起こる「血行不良」を防止する役割があります。そのため、寝返りが打てないと肩こりや腰痛、寝起き時のだるさなど体調不良に繋がるのです。
「体圧分散性」だけではなく、快適な寝返りを打つために「適度な反発力」を併せ持ったマットレスを選ぶことで、質の高い睡眠が得られます。
ただし、マットレスの硬さや反発力は、人それぞれの体重や体型によっても異なるため「自分にとって最適なマットレスを探す」という意識が大切です。
まとめ
睡眠負債は一時的な睡眠不足とは違い、慢性的で継続的な睡眠不足が積み重なっている睡眠における借金のようなものです。
睡眠負債を抱えている状態が継続的に続くと、肉体面や精神面にさまざまな悪影響を及ぼすため、心当たりのある場合は早めの対処を心がけましょう。
また、睡眠負債は、寝だめで解消することは期待できないため、毎日しっかりと睡眠時間を確保した上で、睡眠の質を高めていくことが大切です。
今回の記事で紹介した日常的にできる方法を試すことで、快適な睡眠を手に入れ、睡眠負債の解消を目指してください。