人間は寝ている間にコップ1杯分の汗をかくといわれており、寝汗をかくこと自体はごく自然な現象です。しかし、汗の量によっては不快感や寝にくさに繋がってしまいます。なかには寝汗の量が多く、困っている方もいるのではないでしょうか。
この記事では、人が寝汗をかく理由や寝汗の量が増える原因、対策方法について詳しく解説します。
人が寝汗(盗汗)をかく理由
人が寝汗をかく理由は、睡眠中の体温を調整するためです。汗には高くなった体温を下げる役割があり、就寝中は寝汗をかくことで丁度良い体温を維持しています。
例えば、高熱で寝込んでいる時、普段よりも多い寝汗の量に驚いた経験がある方は多くいるでしょう。これは風邪によって上がりすぎた体温を、適切な温度に調整しようとする機能が働くことで生じる現象です。
つまり、寝汗をかくこと自体はごく自然な現象です。極端に寝汗の量が多くない限り、健康面で心配をする必要はありません。
もし暑くないのに寝汗の量が極端に多い場合は、盗汗(とうかん)と呼ばれる症状の可能性があります。盗汗の場合は、頭から首筋にかけて上半身に汗をかくことが多いとされています。特別暑くない時や発熱がない時に大量の汗をかく場合は、盗汗を疑ってみましょう。
盗汗は、体力が消耗している時やストレスがある時、自律神経が乱れている時など、体が弱っている時になりやすい傾向にあります。
また、お酒やカフェインの飲み過ぎ、不規則な生活を送っている時など、生活習慣が関係していることもあり、何かの病気が潜んでいることも考えられます。
就寝中にコップ1杯程度の汗をかくことは自然なことですが、寝汗の量が極端に多いと感じる場合は注意が必要です。
寝汗の量がいつもより増える原因
寝汗をかくこと自体は自然な現象であるものの、汗の量が多くて悩んでいる方もいるでしょう。
寝汗の量が多すぎると不快感や睡眠の質の低下に繋がるため、気になる方は早めに原因を特定して取り除くことをおすすめします。寝汗の量が増える原因として考えられるのは、以下になります。
- 就寝環境
- ストレス
- 更年期障害
- PMS(月経前症候群)
以下でそれぞれの原因を解説します。
就寝環境
寝汗の量が増えたと感じる方は、就寝環境を見直してみましょう。寝室が暑さを感じやすい環境だと体の体温が高くなり、寝汗の量も増えてしまいます。
例えば、寝室の温度が高すぎる場合、夏の季節にも冬用の暖かい寝具を使っている場合などは、体温が高くなりやすいです。気になる方は、冷房の活用や寝具の買い替えを検討すると良いでしょう。
ストレス
寝汗の量が増える原因としては、普段受けているストレスの影響も考えられます。多くのストレスを抱えていると自律神経が乱れてしまい、寝汗の量が増える場合があります。
自律神経は内臓の働きを調整してくれるほか、体温調整をする役割も持っている神経です。必要に応じて体温を下げるために発汗を促し、適切な体温を保ってくれています。
しかし、自律神経が乱れると体温を調整する機能が正常に働いてくれず、必要以上に寝汗をかくことがあります。
更年期障害
更年期障害とは、加齢に伴い女性ホルモンの分泌量が減り、ホルモンのバランスが崩れることで生じる心身の不調のことです。動悸や息切れ、頭痛など症状は多岐にわたり、代表的な症状の一つに寝汗があります。
先述したように、体温調整は主に自律神経の働きによって行われています。しかし、更年期に女性ホルモンが減少すると自律神経に乱れが生じ、体温調整がしにくくなることで過度な寝汗に繋がります。
加賀康宏
霞ヶ関診療所院長
更年期障害を完全に予防することは難しいですが、適度な運動、バランスの良い食事、ストレスを溜めないよう適度にリフレッシュして生活習慣を整えることが重要です。
更年期症状の治療として漢方薬やホルモン治療があります。身体の異変を感じたら早めに内科、婦人科に相談しましょう。
PMS(月経前症候群)
月経のタイミングで寝汗の量が増える場合は、PMS(月経前症候群)の症状による可能性が考えられます。
PMSとは、月経前に生じる心身の不調のことです。月経前は女性ホルモンの一つである「プロゲステロン」が増加することで体温が上昇するため、普段よりも寝汗をかきやすくなります。
なお、月経前症候群が原因の場合は、月経開始後は体温が正常に戻り、寝汗の量も改善されていくでしょう。
寝汗の量は病気によって増えることもある
寝汗の量が異常に多い場合は、病気にかかっている可能性も考えましょう。寝汗の量は病気の症状によって増えることがあります。過度な寝汗に繋がる可能性がある病気は以下が考えられます。
- 睡眠時無呼吸症候群
- 呼吸器疾患
- 甲状腺機能亢進症
以下では各病気の概要や症状を紹介します。
睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠中に何度も呼吸が止まる、または浅くなることで体の低酸素状態が発生する病気です。睡眠中に無呼吸の症状が生じると息苦しさによって体を激しく動かしてしまい、寝汗の量が増えることがあります。
無呼吸のほかには、大きないびきも特徴的な症状の一つです。不安な方は、周囲の方に自分のいびきの有無や大きさを聞いてみると良いかもしれません。
「枕が合っていないのではないか」と感じる方もいるかもしれません。そのような不安がある方は、ぜひ以下の記事も参考にしてください。
睡眠時無呼吸症候群と枕の関係性について詳しく解説しているほか、睡眠の質を高めるためのアイテムの選び方も紹介しています。
加賀康宏
霞ヶ関診療所院長
肥満により喉や上気道が狭くなることが主な原因になります。その他、顎のサイズや鼻腔が狭い、扁桃が大きいことがきっかけになることもあります。
呼吸器疾患
呼吸器疾患とは、肺や上気道をはじめとした呼吸器に発生する疾患の総称を指します。咳や息切れ、息苦しさなどが代表的な症状ですが、疾患の種類によっては症状として寝汗が生じる場合もあります。
例えば、肺結核は寝汗が生じる疾患の一つです。寝汗のほかには、体のだるさや発熱、体重の減少などがあらわれます。
甲状腺機能亢進症
甲状腺機能亢進症とは、甲状腺が活発に活動することで血中に甲状腺ホルモンが多く分泌される病気です。
甲状腺ホルモンには新陳代謝を調整する作用があり、心身の成長や脳の働きの維持には欠かせないホルモンです。しかし、分泌量が増えると代謝が活発になりすぎるため、過度な発汗に繋がってしまいます。
加賀康宏
霞ヶ関診療所院長
健康診断で甲状腺の腫れを指摘され、見つかるケースも多いため、健康診断を毎年受けるように心がけましょう。また、女性に多い疾患で、発汗、手の震え、不眠などの症状が出ることが多いため、当てはまる方は早めに内科、内分泌代謝科へご相談ください。
寝汗を放置するとどうなる?
寝汗をかいているのにそのまま放置していると、以下のようなトラブルが生じる可能性があります。
- あせも
- 風邪
- 寝具へのダメージ
汗を大量にかくと汗を排出する汗管が詰まり、肌に赤いポツポツとしたあせもができやすくなります。また人によっては、かゆみや熱を伴うこともあるでしょう。軽いあせもは自然と治るケースが多いものの、放置しているとかゆみから皮膚を搔きむしってしまい、そこから伝染性膿痂(とびひ)や、多発性汗腺膿瘍(あせものより)などの細菌感染症を生じさせることもあるため、注意が必要です。
また、寝汗をかいても着替えないと、汗が冷えて体を冷やして風邪を引きやすくなります。汗を吸収しやすい寝間着を着用することはもちろん、大量に汗をかいたらこまめに拭き取り、衣類が冷たく感じたら着替えるようにしましょう。
このほか、寝具に大量の汗がついた状態で放置していると、汗に含まれる水分がカビやニオイを発生させて寝具にダメージを与えます。季節の変わり目で布団を長期間収納する場合は、布団を洗濯してしっかり乾燥させましょう。
寝汗の対策方法
寝汗の量は自分でもある程度対策ができます。対策方法はさまざまありますが、なかでも下記の4つは実践しやすいのでおすすめです。
- ストレスケアを怠らない
- 規則正しい生活を心がける
- 吸湿性や速乾性の高い寝具・寝間着を選ぶ
- 就寝前にリラックスする
以下でそれぞれの方法を見ていきましょう。
ストレスケアを怠らない
受けているストレスが多いと、自律神経の乱れから過度な寝汗に繋がってしまいます。そのため、ストレスを感じやすい方は普段のストレスケアを怠らないように心がけましょう。ここではストレス解消方法の例を紹介するので、ぜひ参考にしてください。
- 気分転換に外出する
- 読書する
- 趣味に没頭する
- 悩みを身近な友人や家族に相談する
また、ストレスケアに取り組むための時間を確保することも重要です。普段から時間に追われている方は、1日のスケジュールを見直して自分の時間を増やせないか検討しましょう。
規則正しい生活を心がける
発汗をコントロールしてくれている自律神経は、ストレスだけでなく不規則な生活習慣が原因で乱れてしまうこともあります。
また、不規則な生活習慣は肥満をはじめとした生活習慣病に繋がる、肌が荒れやすくなるなど、普段の生活にさまざまな悪影響を及ぼします。健康的な日々を送るためにも、生活習慣が乱れている方は早めに改善しましょう。
規則正しい生活を送るポイントは下記の3つです。
- 毎日同じ時間に起床・就寝する
- 適度に運動をする
- 夜はスマホやパソコンの操作を避ける
特に起床・就寝の時間は、意識しないとずれてしまいやすいので注意が必要です。休日でもなるべく毎日同じ時間に起床・就寝するように心がけましょう。
吸湿性や速乾性の高い寝具・寝間着を選ぶ
寝汗の量が多くて不快感がある方は、使っている寝具や寝間着を吸湿性・速乾性に優れた製品に変えてみましょう。
吸湿性・速乾性の高い素材を使った寝具や寝間着はかいた汗を吸収してすぐに乾いてくれるので、寝汗が多い方でも快適に眠ることができます。
なかでもコットンやリネン、絹を素材にした寝具や寝間着は吸湿性が高いのでおすすめです。不快感の原因になりやすい蒸れ感やベタつきが軽減されます。
また、寝汗によって寝具にたまる湿気が心配な方は、除湿マットを活用すると良いでしょう。マットレスの下に敷いておくと、寝具にたまった湿気を取り除いてくれます。
就寝前にリラックスする
寝汗が気になる方は、「気持ちが落ち着く音楽を聞く」「好みのアロマオイルを使う」などの工夫をして、就寝前にリラックスできるよう心がけましょう。軽いストレッチや深呼吸をすることも、ストレス発散とリラックスに繋がります。
また、就寝1〜2時間前にぬるめのお湯に入浴すると、体全体がリラックスしてスムーズに入眠しやすくなります。お好みの香りの入浴剤を使えば、よりリラックス効果が期待できるので、おすすめです。
寝汗(盗汗)が気になる時は病院の受診も検討する
異常に多い寝汗(盗汗)が気になる時は、早めに医療機関を受診することをおすすめします。先述したように、寝汗の量が異常に多い場合は何らかの病気を発症している可能性もあります。
寝汗が気になる場合、基本的には内科を受診しましょう。検査をすることによって、寝汗に潜んでいる病気を発見できることがあります。
ただし、女性の場合は生理や妊娠、更年期のホルモンバランスの乱れによって寝汗が多くなることがあります。寝汗だけでなく不安感やイライラ感もある場合は、婦人科や心療内科を受診しましょう。
また、女性だけでなく男性にも更年期障害が起こることがあります。女性の場合と同じく、大量の寝汗に加えて不安感やイライラ感がある場合は、心療内科を受診しましょう。
まとめ
適度な寝汗は体温を調整するために欠かせませんが、量が多すぎると不快感から眠りにくくなってしまいます。気になる方は寝汗が増える原因を取り除き、眠りやすい就寝環境を整えましょう。
寝汗にお悩みの方は、この記事で紹介した「ストレスケアを怠らない」「規則正しい生活を心がける」「吸湿性や速乾性の高い寝具・寝間着を選ぶ」「就寝前にリラックスする」などの対策に取り組むことをおすすめします。
また、極端に寝汗の量が多い場合、病気の症状によって寝汗が増えている可能性も考えられます。寝汗のほかにも心身に不調がみられる場合は、念のために医療機関を受診することをおすすめします。